《MUMEI》 転校生・榊原 高巳. そうこうしているうちに、ざわつく教室の中へ担任の先生が入ってきた。それに気づいた生徒達は慌ただしく各々の席につく。 先生は教卓に立って生徒全員が着席したのを見届けると、転校生を紹介すると言い、教室のドアに向かって誰かに大声で呼びかけた。どうやら廊下に転校生を待たせているらしい。 先生の声から少し遅れて、ドアがゆっくり動いた。カラカラ…と乾いた音を立てながらドアが開ききると、 そこから現れたのはやはり、あの学生服を着た少年だった。 整った目鼻立ちはまるで人形のように愛くるしい。颯爽と歩く姿も凛々しかった。顔色は少し優れないようだが、それがより彼の儚い雰囲気を醸し出している。 その独特の雰囲気に、 いや、面差しにもやはり覚えがあるような気がする…。 クラスメイト達は女子も男子も彼の美貌に釘付けで誰ひとりとして声を発する者はいない。しかしその中で憂だけは興味なさそうにあくびを噛み殺していた。 少年は先生の隣に立ち、教壇からクラス中をぐるりと見渡す。そのとき、目が合ったような気がした。しかし次の瞬間には違う方向へ顔を向けていたので、気のせいだと思うことにした。 先生から挨拶を促され、彼はにっこりとクラスメイト達に向け、初めまして、と優しい微笑みを見せ、 「本日付で転校してきた榊原 高巳(サカキバラ タカミ)です。わからないことだらけなので色々迷惑かけると思うけど、よろしく」 さっぱりと簡潔にソツなく述べた。臆することなく堂々とした態度は注目を浴びることに慣れているからか。 クラスメイト達はやはり固まっているので返事さえしない。完璧に魅了されてしまったようだ。 つーかそれより、 「…『サカキバラ タカミ』?」 思わず小さな声で繰り返した。どこか懐かしい気がしたのだが、同時になぜか違和感もある。 彼の名前が頭に引っかかり、俺は記憶を探る。どこかで聞いたことがある。あれはいつのことだったか…。 . 前へ |次へ |
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