《MUMEI》

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しばらく考えてみたが思い出せない。あと少しで思い出せそうな気もするのだが、面倒になった俺は顔を上げると椅子にもたれ掛かってため息をつく。

そこで、ドキリと心臓が跳ねた。

転校生―――榊原 高巳が俺の顔をじっと見つめていたのだ。自然と目が合ってしまう。さっきのも気のせいではなかったのかもしれない。


何だ?

不審に思ったがこちらから目を逸らすのは怯えたようで不本意なので、あえて目を逸らさずにいた。

榊原はしばらく俺を見つめていたがやがてゆっくり目を逸らすと、僅かに不敵な笑みを浮かべたように見えた。その表情は先ほど見せた柔和な微笑とは違いひどく感じの悪いものだったが、不思議とそっちの方が彼の雰囲気に合っているような気がする。

ちなみにそれ以後、榊原は俺のことを見ようともしなかった。バカにしてんのか。彼の態度に何となく腹が立つ。


先生が生徒達に、仲良くするようにと申し伝えたことで、転校生の紹介は終わった。




退屈な始業式も、近隣の失踪事件に関して、女子は特に注意するよう呼び掛けられたこと以外は滞りなく終わり、帰宅時間になると榊原はあっという間にクラスメイト達に取り囲まれた。見てくれと当たりの良さから早速クラスの人気者になったらしい。

取り巻きを冷めた目で眺めている俺に、憂が話しかけてきた。

「今日の活動だけどお休みにしてもいいかしら?用事ができてしまったの」

願ってもない申し出である。

「よろこんで」

「…何か引っかかるけれど、まあいいわ」

それじゃ、と言って立ち去ろうとする彼女を呼び止めて、榊原に群がっている集団を指差した。

「君は混ざらなくて良いの?」

当然拒否するだろうと思ったが取り合えず尋ねてみる。

案の定彼女は、その群衆に一瞥を向けると、遠慮しておくわ、と肩をすくめた。

「あいにく興味がないの」

気持ちいいほどバッサリ切り捨て、颯爽と俺から離れていった。

俺も帰ろうと思い鞄を肩にかけ、教室のドアへ向かう。出る前に一度だけ榊原の方を何気なく見た。俺の視線に気づかないのか、榊原は大勢のクラスメイト達に爽やかな笑顔を振りまきながら、穏やかに対応している。それが不思議としっくりしない。



何だろう、この違和感は。



首をかしげながらも俺はひとりで教室を出たのだった。



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