《MUMEI》
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「ヒカリ…?」



一人が丸めた地図で、自らの顎をコツコツとたたいて言う。



その声は、先ほどの少女の様な声とは打って変わって、年相応の少年の声になっていた。










藁が敷き詰められた、狭い小屋。


よく見れば、藁の間から見える床には、絵とも文字とも取れる紋様が記されている







少年たちは、それぞれに違う方向に目をやっている




一人は藁に腰を下ろし、壁に背を付いて腕に巻いた時計のツマミを引いたり、回したり。


一人は、俯せに顔だけを持ち上げた体制で、胸ポケットからヘアピンを取り出して折り目を逆に折り曲げた





一人は丸めていた地図を開き、また四つ折りに畳み直す





もう一人は窓辺に寄り掛かり、肩越しに外を窺っている










バラバラ、だ。

しかし会話は成り立っていた。











「まさか、食いもんにあのチョウの卵が…ね」



藁に俯せに寝転がった一人が、一直線になったヘアピンを指でつまんで眺める



「あのオッサンがクッキーに魔法かけて無かったら、俺…」



「腹腸から、喰われていってたな」



腕時計から、目を離して一人が何でもないことのように言い放った。




「いつの間に、だろうね」



地図をポシェットにしまい込み、また他の地図を取り出して一人が肩を竦めた。



「食品の通過ルートも、全て牛耳ってるんっしょ?」

確かに同じ人物が話していたが、その声は直前に聞こえた声とはまた違うものだった。





「いつの間に、なんて知ったところでこの状況は変わらねーよ。」

腕を組み、窓の外を見たままに、また他の一人が言う


「俺らのダチにも、原因不明の病気で死んだり、あのバケモノに殺ら…」


すでに窓の向こうは見ていなかった。


瞳を閉じ、思い起こすのは





少年が失った

否、奪われた友人たちの姿だろうか。








「…問題は」





地図の四隅をキッチリと合わせながら、一人が言葉を引き継ぐ



「誰なのか、或いは」




ピッ

音が鳴った時計に再び目を移しながら、また他の一人が言葉を引き継いだ






「何なのか、だろ?」

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