《MUMEI》 正体. ―――その夜。 夕食前にリビングでテレビを見ながらくつろいでいたら、インターホンのチャイムが鳴った。来客のようだ。 「出てくれない?今、手が離せないのよー!」 キッチンから食事の支度をしている母の声が誰にともなく飛んでくる。あいにく父も姉も出払っているので、俺に向けられたものであるのは明らかだった。 俺は渋々立ち上がり、玄関へ向かった。 玄関のドアを開けた瞬間、固まった。予想もしていない人物がそこに立っていたからだ。 「こんばんは」 相手はさも当然のように挨拶を述べる。日本人形のように恐ろしく整った顔に殺人的に優しく魅力的な笑みを浮かべて。 転校生の榊原 高巳だ。 何でここに、と尋ねる前に榊原はキョロキョロと家の外観を見回した。 「いやー相変わらずデカイお家だね。やっぱ住職って儲かるの?」 馴れ馴れしい口調でそんなことを言う。俺は混乱して現状がうまく把握できない。 相変わらずって何だ?まるで俺の家を知ってるような口ぶりだ。それに父親が住職だということも。 何者だ、コイツ。 数秒間で俺の脳幹が考えた結果、導き出した答えは、 変質者、もしくは気違いだ。 俺は黙ってドアを閉めようとしたが、思いがけない速さで榊原はドアの隙間に爪先を突っ込みそれを阻む。まるで俺の行動を予知していたように。 「冷たいなー、いきなり閉め出しなんてずいぶんじゃない?聖職者の息子には慈愛とか慈悲とかいうモンはないわけ?」 ドアの隙間から顔を覗かせヘラヘラ笑いながらそんなふうに俺の出自をザックリと皮肉る。 俺は鼻を鳴らして彼を睨みつけた。 「あいにくウチは仏教なんでね、どっかの宗教みたいな隣人愛とやらの教えはないんだよ」 俺の返事に榊原はおかしそうにケラケラ笑うがその瞳は冷えきっていた。そのアンバランスさに背筋が寒くなる。 . 前へ |次へ |
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