《MUMEI》

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「お前、まさかあの榊原…っ!」

慌ててしまい声がつまった。俺の顔を見て榊原は嬉しそうに笑う。

「そうだよ、僕、僕。やっと思い出してくれた?」

よかったーとにこやかに笑う顔を見て、俺は青くなる。

「何でお前がここに…」

震える声で尋ねた。その反応がおかしかったのか、榊原はケラケラ笑い、

「ちょっと事情があってまたこの街に戻ってきたんだ。だったら灰谷が通ってる学校に転入した方が、こっちの都合もよかったんでね。これでも調べるのに結構苦労したんだよー。で、今日はその事後承諾がてらご挨拶に来たってワケ」

ペラペラとひとりで捲し立てる。
相手そっちのけでマシンガンのように喋り続けるタチは昔と全然変わっていない。軽く目眩がした。
榊原は青ざめている俺の存在をやっぱり歯牙にもかけず、だからさー、とまた勝手に話を始める。

「やっと探し当てて来たっていうのにこうやって門前払い食らっちゃたまらないんだよね。それに…」

彼は視線を家の中に流す。俺の背後を見つめたまま、意地の悪い笑みをもらした。

「また『変なモン』に憑かれちゃってるみたいだし、ついでにアレもどーにかしてあげるよ」

榊原の視線を追って俺は後ろを振り返る。リビングまで続く廊下の先に、未だしぶとくウチに居座っているレイコが立っていた。青白い顔でぼんやりこちらを見つめている。
除霊グッズのおかげなのか、取り立てておイタもしなくなったので最近はあまり相手にしていない。

榊原に直視されたレイコは、彼がまとう禍々しいオーラを感じ取ったらしく、顔を一層青くする。身の危険を察知したようだ。


俺は榊原へ視線を戻して口を開く。

「遠慮する、アイツは危害を加えたりしない」

ひとつ屋根の下で寝食(?)を共にしていたからか、何となくレイコを庇うような発言をしてしまった。レイコも俺の言葉にときめいたようで、ちょっとドギマギした雰囲気を背後から感じる。

榊原は何もかも見透かしたような瞳を俺に向け、バカにするようにフッと鼻で笑った。

「そんな生っちょろいことばっか言ってるからああいう下等なヤツラに狙われちゃうんだよ、灰谷は。ま、僕には関係ないからどーでもいいけど。で、入れてくれンでしょ?」

のらりくらりとしているくせに何かにつけて強引なこの旧友の昔を思い返した。追い返したところで素直に帰ったためしなどないのだ。それにようやく見つけてここへ訪れたのなら、帰れと言って聞くはずがない。

俺は観念してため息をついた。

「…10分だけだからな」

ドアを大きく開いて榊原を招き入れたのだった。



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