《MUMEI》

多少なり引っ掛かりを感じ
九重は顔は伏せたまま、不意打ちにくさの花の部分を掴み上げてやった
「……誰が、何だって?」
「い、いや!我は唯、主殿はシャイだ、と……!」
「うるせぇよ。やっぱお前一生埋まっとくか?」
「そんな事をしたら腹が減るではないか!主殿は我に飢え死ねと!?」
「光合成でもすりゃいいだろうが」
頭に付いている花は何のために付いているのかと突っ込んでやれば
くさはその事を今思い出したかの様に諸手を打つ
「その手があったか」
「……今更に気付くなよ」
「我が光合成で腹を満たせば食費も浮く。皆々に迷惑をかけずに済むな」
ソレがいい、と一人納得し
九重の手から何とか逃れると、鉢植えを日当たりいい窓際へと引き摺って行く
「ほっこりするのだ」
「は?」
「今からは我は、ほっこりとするのだ」
宣言され、くさは鉢植えの土の中へ
瞑想でもするかの様に眼を閉じ、動かなくなっしまったくさへ
九重は最早何を言う気にもなれないでいる
「……鈴。これ、放ってきていいか?」
一応、断りを入れてやれば
鈴は相変わらずの笑みを浮かべながら、緩く首を横へと振って見せていた
「智一さん、駄目ですよ。くささん苛めちゃ」
「苛めてる気は更々ないんだけどな」
未だ瞑想途中らしいくさ
全く動く気配を見せないくさへ、九重は何度目か解ら無い溜息をつく
「……好きにやってろ」
踵を返した九重が次に向かったのは、庭
プランターに植えてやった人参の様子を窺う
小さな芽を出すソレを何気なく眺め、九重は改めてくさの方を見やる
こくりこくりと船を漕ぐくさ
だがその最中、寝たばかりだというのに唐突に飛び起きる事をしていた
「はっ!!忘れていた!!」
「何だよ、いきなり」
最早どうでもいいといった様子の九重
呆れかえった眼を向けられている事に気付かないままのくさは
徐に頭の花の中へと手を突っ込み
其処から小さな花が付いた蔓の様なモノを取り出した
「あーあー」
花弁へと向け、マイクテストの様な声を出す
何の儀式なのか、訝しみながらその様子を眺め見ていると
「うぇるか〜む。まいふぁみり〜」
「は?」
不意に頭上に現れた複数の影
見上げてみた次の瞬間
九重の上へ、何かが降ってきた
「何なんだよ!?」
次々に振ってくるそれらに何度も踏みつけられ
異を唱えてやろうと身を起して見れば、そこに
くさと同じような後姿が見える
「主殿!紹介しよう!これが我の家族だぞ!」
その声を合図に、一斉に九重の方へと向いて直る面々
見事に皆くさと同じ顔をしており、パッと見全く区別が付かない
「母上。お久しぶりです」
動揺にすっかり固まってしまっている九重は放り置き
くさは久しぶりの対面なのか、居住まいを正し深々と頭を下げる
「元気そうね〜。お母さん、安心したわ〜」
「母上もお元気そうで」
砕けた母親と堅苦しいばかりの息子
そのやり取りを眺めていた、父親らしきひげを生やした風格漂うもう一匹がスッと前にでる
「これ、先に主殿達に挨拶をしないか」
「あら、私ったら」
ソコで漸く母親が居住まいを正し、九重達へと向き直ってくる
「くさがお世話になっております。くさの母です」
改めて頭を下げられ、一瞬何を返す事も忘れてしまっていた九重だったが
一応、すぐに頭下げて返していた
「これ、詰まらないものですけど〜」
言葉も終わりに差し出される箱
何かと開いてみれば、その中身は
「……人参」
「宇宙人参です〜。甘くて美味しいんですよ〜」
是非食べてみてください、と勧められ一瞬躊躇した九重だったが
戴いたモノを無下には出来ない、と傍らの鈴へとそれを渡す
「有難う御座います。なら、今日はこの人参を使わせて貰って、シチューを作りましょうか」
この状況下にて、普段通りの妻
大量の人参を抱え、嬉しそうに台所と入っていく
「そう言えば主殿。咲殿とさくら殿は?」
「?まだ昼寝してる筈だが……」
くさのソレで様子をうかがおうと二人が寝ている筈の後ろを振り返ってみた
次の瞬間
「たーすけてー!」
昼寝用にと引いていた筈の布団、その上が何故か喧しい事になっていた
元気いっぱいに昼寝から起きた双子達に追いかけまわされるくさの家族
九重はソレを助けてやるでもなく

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫