《MUMEI》

「…あのさ、健太…」


声が震える。

健太は何も言わない。

私の方を見ようともしない。


…ねぇ、健太。

もしかして…気付いてる?

今から私が何を伝えようとしているのか。


「…ごめん、ね…いろいろ」

「何で謝ってんの?愛香、俺に謝らなきゃいけないようなことしたの?」

「え…違っ…それは…」


やばい。私動揺してる。

拓也にキスされたこと思い出しちゃった。


健太は一瞬だけ、私に視線を向けた。

その一瞬の視線が、とても冷たくて。

あの温もりはどこにもない。


…私がこうしてしまったんだ。


「…愛香…俺、愛香のことめちゃくちゃ好きだよ。今この瞬間もだよ?」

「……健太…」

「だけど…もう無理なんだな」


涙が出そう…。

だけど、ここで今私が泣いたら、ずるいよね。

私が呼び出しておいて泣くなんて。

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