《MUMEI》

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俺は榊原の顔に視線を戻して、別に、と素っ気なく答えた。

「見えるにゃ見えるけど、今に始まったことじゃないし。それにさっきも言ったけどアイツは無害だし、ちょっと面倒なくらいで困ってはいないな」

正直なところ、ヤツ等が見えてしまうのは実はかなり面倒であるのだが、それを素直に彼に話してしまうとコイツの思う壺なので適当に濁した。

すると榊原は納得したように頷く。

「あーそっか、あんた関わらない主義だもんね」

「そっちの方がラクだからな」

俺の返しに榊原はしきりに頷いて、でもさぁ…とゆっくり言葉を紡ぐ。

「せっかく『そういう体質』なんだからさ、その才能をもうちょっと大きく生かしてみないかなーって」

『そういう体質』というのは俺の特殊な能力のことだろう。俺は警戒した。
榊原がこういう話の切り出し方をするときは、どうしようもないことを企んでいると決まっている。

「いちいちまどろっこしいんだよ。どういうことか、ハッキリ言え」

「あ、そう?じゃ、お言葉に甘えてハッキリ言ってみようか」

そこまで言うと彼はもう一口お茶を飲み、湯呑みをテーブルに置いた。


「バケモノ退治とかしてみたくない?」



バケモノ退治?



「…お前の思考がかなりブッ飛んでるのはわかってるつもりだけど、ついに頭がイカれたか?」

突拍子もない話に呆れ返って、軽く受け流そうとしたが、榊原はそれを冷たい微笑で引き留める。

「ずいぶんな言い方じゃない?こっちは大真面目に話してるってのにさ」

「真面目に話してそんな台詞が飛び出して来るようじゃ、それこそお前の脳ミソも末期だな」

俺は自分の湯呑みを取り上げて一気にあおる。それを勢いよくテーブルに戻したタイミングでまた口を開いた。



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