《MUMEI》

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しかし、榊原は大袈裟に首を振って、甘い甘い、と小バカにしたように言った。

「それが君のスタンスだっていうことは重々承知してるけど、ムダなあがきだね。こっちがどう対応しようとヤツ等には関係がないのさ。むこうの気が済むまでお構いなしに関わってくる。君や僕のような、特殊な人間にはとくにね。なぜかわかる?」

問い掛け口調だが、これは別に俺に意見を求めているワケではない。今ここはすでに榊原の独壇場だ。反問は絶対に許されない。下手に口出しすれば怒濤のような反撃をくらい叩き潰されるだろう。彼の性格ならよく知っている。俺は口を閉ざした。

案の定榊原は俺の方へ、グッと身を乗り出してきた。

「僕達を通して、ヤツ等は自分達が抱えている現世の苦しみや悲しみ、恨みをただ誇示したいだけなんだ。要するに僕達はヤツ等にとって単なる自己満足の道具ってワケ。はっきり言って、そんな扱いは死んでもごめんだね。あんな下等なヤツ等に利用されるなんて不本意すぎて憤死するよ、全く」

両手を大きく広げて一息に捲し立てる。テンションが上がると大袈裟な身振りに加えやたら饒舌になるのは榊原のクセだ。一度エンジンがかかるともう誰にも止められない。

精一杯の抵抗のつもりで俺はひたすら黙り込むが榊原が口を閉ざす気配はない。

「君だって本当は我慢ならないはずだ。ヤツ等のオモチャにされるのをわかってて黙って見過ごすなんてさ。お人好しも度が過ぎるとただのバカだよ。君は僕の正気を疑うって言ってたけど、僕に言わせたら君の態度はそれこそ正気の沙汰じゃないね」

黙ってるつもりだったが俺の主義を頭ごなしに否定されたことに腹が立った。薄笑いを浮かべる榊原を睨みつける。

「お前が何をしようとお前の勝手だけどそこに俺を巻き込むな。俺には俺の考えがある。それは変わらないし、変えるつもりもない」

そこまで言うと、榊原はさらに人の悪い笑みを浮かべた。ふーん?と勘ぐったような声をあげたが俺は黙殺する。

しばらくお互いに黙り込んだあと、

「ま、いいや。約束の10分も過ぎちゃったし、今日はこの辺で引き上げてまた別のアプローチの方法を考えてみるよ」

榊原が早々と話をまとめてソファから立ち上がった。これだけ拒否されても諦めるつもりはないようだ。

「何を言われようと俺はお前になんかなびかない」

断固とした拒絶はしかしあっさりと嘲笑われ、榊原は冷たい笑顔で、そうかな?と平淡な抑揚で呟いた。

「…でも最後には、君は僕に協力してくれると思うけどね」

何かを含めた言い方が引っ掛かったが、結局榊原は勝手に話をそこで切り上げるとリビングから出ていった。ドアのそばにいたレイコは怯えた眼差しで彼の背中を見送っている。



―――面倒なことになった。



ソファに身を沈めながら、俺は深いため息をついた。



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