《MUMEI》
井上くん
「こいつと俺の二人だ。」

洋平はそう言うと、司の肩をポンッと叩いた。


「うぃっす…。」

「あ…」


優香とはもちろん、他の女子達も二人の事情は知っていたので、何となく気まずい空気がその輪の中に流れ出した。

そんな空気を読んでか読まずか、洋平は何食わぬ顔で計画の続きを話し始めた。

「日にちはさっきも言った通り次の水曜なんだけど、時間は何時頃がいいか…」
「丑三つ時…」

「え!?」


腕組みをしながら立っていた洋平の背後から、ボソリと呟く声が聞こえ振り向くと、一人の男子が…。

井上だった。


「君達、肝試しするんだろ?だったら丑三つ時に限るよ。」

「あ、あぁ…」


洋平はこの生徒が苦手だった。いや、洋平だけではない。クラスの殆どがそうである。

特に暗い訳ではないが、ただ高校生らしくないというか、妙に落ち着いていて、冷たい印象がある。

それ故クラスの皆と交わることがなく、いつも一人浮いた存在になっていた。


そんな井上が自分の方から話し掛けて来るのは珍しい。


「い、井上も来る?」


つい勢いで言ってしまった一言。
他の四人の視線が洋平を突き刺していたが、今更取り消すことはできず、


「僕も行っていいの?」


確認する様に言われては、‘ノー’とは口が裂けても言えなかった。

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