《MUMEI》

だらりと骨が通わないかのように、体を揺らして、妻の指に下がるものは、不気味だ。

フイリプが呆気にとられているうちに、妻は舌を垂らし、天井を見つめ素早く、口に含めた。

ごくん、
彼女の咽を通ったそれは、霧のように幻と消える。

醜く歪んだ笑顔を向けられると、フイリプは頭に血が上っていた。

一度も、妻に手を挙げたことなど無かったフイリプであったが、この時ばかりは、怒りに我を忘れていた。

そこには、怒りと同時に羨望が混じっていた。
命の宿した儚い美を、永遠にする術、自分の血と肉にしてしまうこと、妻の行動力はフイリプには持ち合わせて無かった。
嫉妬に狂った彼女でしか成しえない、凶行に、フイリプは憎悪し、憧れた。

自身で引いた、禁断を目の前でやすやすと越えられたことへの感情だ。

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