《MUMEI》
違う世界
「それで、何でしたっけ?」
凜は羽田の目をまっすぐに見つめている。
なんとなく目を逸らしながら羽田は答えた。
「昨日のこと。教えてくれるんでしょう?」
「ああ、そうでしたね。もう少し、待ってください。まだレッカが来てないから」
「あ、ああ。そうね」
頷きながら、羽田はもう一度部屋を見回した。
やはり、中学生の部屋には見えない。
無駄なものは一切置いていない。
よく考えると教科書すら見当たらないではないか。
彼女は教科書をすべて学校に置いているのだろうか。
学年末に持って帰るのが大変だろうに。
などとくだらない事を考えていると、凜に話し掛けられた。
「先生は、この世界とは違う世界が存在するって信じてますか?」
「え?」
「つまり、異世界ってことですけど。信じてます?」
突然の質問に、戸惑いながら羽田は凜の表情を窺う。
彼女は真剣に質問しているようだ。
冗談ではないらしい。
「えー、と。そうね……あったらいいなとは思ってる」
「あったらいい?どうして?」
「だって、そりゃ、なんか楽しそうじゃない。この世界とは違うわけでしょ?いろいろと。もし、別の世界へ行けたら絶対今よりも楽しく暮らせると思うな。あ、魔法が使えたりとかしたりして」
「……先生は意外と考えが子供なんですね」
いきなり変な質問をされたかと思うと、今度は馬鹿にされてしまった。
「あなたが、聞いたから答えたのに…」
少し腹立たしさを感じながら、羽田は言った。
しかし、凜はそんな羽田の様子を全く気にせず、窓の外に目を向ける。
「だって、先生の口ぶりだと他の世界でもここと同じように暮らせるみたいに聞こえるから」
なぜか遠くを見ながら言う凜の横顔を、羽田は見つめた。
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