《MUMEI》

何もかも、もう崩壊したのだと、フイリプが、膝を付いた瞬間、硝子に亀裂が走り、窓が開いた。

厳密に言えば、窓は開いたより、無理矢理こじ開けられ、窓枠しか残されていない。

夜に浮かぶ風船と、窓枠から飛び出して来た獣に、フイリプは混乱した。

しかし、風船の隙間から、ずんぐりむっくりな体格が、現れると、何もかも分かったような気がした。

「サアサア、今宵ご観覧の皆様は幸運だ本日お目にかけますのは、世にも珍しい手乗り人魚だよ!」

団長らしい男は、お決まりの、不愉快な囃し立てをして、獣の男の頭を踏み台に飛び降りた。

獣の男は窓枠につっかえて、出られないが、フイリプに向かって唸っている。

「あんたが、点けた火で怪我をしたのがこいつの弟だから、憎くて憎くて堪らないのさ。」

団長が、獣の男の代弁をした。
そして悠々と瓶を取り出し、妻から吐き出され、転げたそれを、蜂蜜の中に詰める。

「それを持って行くのか。」

フイリプは、去ろうとする、団長の後ろ姿を引き止めたくなる。

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