《MUMEI》

可愛らしい仕草で小首を傾げてくる安堂へ
三原はないを言う事もせずカゴを持ってやりそのままレジへ
「あ、あの!倖君!」
「ん?」
「こ、これ、お財布……」
精算を始めてしまった三原へ安堂は自身の持ってきた財布を出す
だが三原はソレを受け釣る事はせず
自分の奢りだと、僅かに笑って見せた
「で、でもそんなの、倖君にわるい、です……」
「いいから。後で茶、御馳走してくれんだろ?」
それであいこだ、と返してやり、そのまま精算を済ませる
袋一杯の菓子を抱え、二人連れ立って帰路へと付いていた
「……お兄ちゃん?」
途中、聞いた様な声が聞こえ
その声に僅か首だけを巡らせてみれば
そこに、妹が立っていた
面倒なのと遭遇してしまったと三原は苦い顔だ
「ちょっと、何?その露骨に嫌そうな顔」
「別に」
何でもない、を返しながら
三原はさりげなくた立ち位置を変えながら、安堂を妹の視界から覆い隠す
「倖君?」
何をしているのか、小首をかしげてくる安堂へ
三原は僅かに顔を振り向かせてやりながら唇に指を宛がった
何故なのかは分からなかったが、兎に角今は静かにしておくべきなのだと理解したらしい安堂
頷いて、自身の口を手で覆っていた
「で?お兄ちゃん。買い物袋なんて下げてどうしたの?」
「買い物」
「そんなお見れば解るわよ。何でそんなお菓子ばっかり買い込んだかって聞いてるんだけど?」
「食う為に決まってんだろ」
「そうじゃなくて!」
段々とエスカレートしていく会話
妹の声がかなりの音量になった頃
「あ、あの……!」
三原の背後から安堂が背伸びをしながら顔を覗かせてきた
互いの視線が重なり、暫くの沈黙
そしてすぐに、何故か妹の口元が不敵に緩んでいく
「成程。お兄ちゃんの秘密、握っちゃったかも」
「はぁ?」
「最近、帰りが遅いから何かあったのかなってお母さんと話してたの」
「……暇人共」
「失礼な言い方しないでよ!」
「暇だったんだろうが!実際に!」
「そうだけど!」
またはじまってしまった言い合い
どうする事も出来ず、唯うろたえるしか出来ないでいる安堂
段々とその眼尻には涙が浮かんでくる
「なっ……!?」
「え!?」
突然なソレに、二人が同時に驚く
どうしたのか、と三原が顔を覗きこませてやれば
安堂は泣いてしまっている自分自身に驚き、手の平で頬を伝う涙を拭い始めた
「ご、ごめんなさい。わ、私……」
「驚かしたか?」
「ち、違うです。そうじゃなくて……!」
何度も違うと首を横へ振る
尚も涙を流す安堂へ三原は頬へと手を伸ばし、濡れてしまった其処を拭ってやった
一体、何があったというのか
だがはたしてそれを問う事をしてもいいモノなのか
躊躇し、三原は安堂の前に片膝をついて屈み、顔を見やるばかりだ
彼女の柔らかな髪を梳く様に撫でてやれば
漸く落着きを取り戻したかの様に見えた
「ご、ごめんね。驚かすつもりはなかったんだけど……」
困り果てた様子の妹が詫びる事をすれば
安堂は慌てて首を横へと振ってみせる
「……本当に、ごめんなさいです」
深々と頭を下げれば、妹の方も慌てる様に首を横へと振り
自分も買い物に行く途中だった、とその場を後に
その背を見送り、二人はまた歩き始める
傍らを歩く安堂の横顔をチラリ窺い見れば
その眼元は未だに赤く、少しばかり腫れてしまっていた
何故、泣いてしまったのか
その理由が気になりはしたが、今は敢えて聞く事はせず
三原は安堂の歩幅に自身のソレを合わせゆるり歩く
途中、安堂は徐にごめんなさいを小さく呟いてきた
「……?」
「行き成り、泣いちゃったりして。びっくりさせちゃった、ですね」
確かに、驚きはした
だがそれよりもその理由が気に掛る三原だったが
安堂の様子に、それは他人事気が踏み込んではいけない事なのだろう事を察する
「……倖君?」
それ以上何も聞こうとはしない三原
唯、安堂の長い黒髪をゆるり梳いてやるだけだった
漸く落着きを取り戻したのを確認すると
三原はどうしたのか帰路とは別の脇道へと入っていく
何所へ向かうでもなく、唯歩くだけで
だがそれが三原鳴りの気遣いなのだろうと受け取ったらしい安堂はそのまま三原の後ろをついて歩いた

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