《MUMEI》

その瞬間、男は振り向き、もちろん百合もこっちを見た。

涙でぐしゃぐしゃになった百合の顔。

俺を見た瞬間、百合は一瞬だけ、ホッとしたような表情をした。


「…お前!何でここにいんだよっ!」

「違っ…俺は別に…」

「…お前か?百合にちょくちょく連絡してきてた男は。チャラそうな奴だな」


俺が百合に連絡してたこと…何で知ってんだ…。


百合と目が合う。

その瞬間、百合は確かに、俺に言った。

"助けて"と。


「見られちゃ困るんだよな。こんなとこ」


百合を乱暴に床にたたき付け、俺の方へと向かってくる。


さっきまでの恐怖が、嘘みたいに消えていた。


「ただじゃ帰さないからな?」

「…俺だって…百合を傷つけたお前を、ただじゃおかないけど…?」

「…は?」


自分でも驚くくらいの早さで、そいつの胸ぐらを掴み、腹を殴った。

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