《MUMEI》

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榊原への苛立ちが治まらない俺は荒々しくため息を吐き、続けて口を開く。

「アイツの家系は代々敬虔な修験者なんだ。一族で日本にある霊山を渡り歩いて修行してるらしい。それに合わせてアイツも転校してんだよ」

「シュゲンシャ?」

「他に山伏とも言うのかな。修験道を信仰する人達のことだよ。
俗世から切り離された山籠りが多いせいか、それとも元からの性分なのか知らないけど、アイツの思考は常識をかなり逸脱してる。なまじ本人にはそっちのセンスもあるから余計にタチが悪い。
ガキの頃から勝手に加持祈祷やら呪術儀礼やらと抜かして怪しいことにみんなを巻き込んで、前に一度クラスメイトを使って降霊術をしようとしたんだぞ、気違いとしか思えないな」

怒りに任せてペラペラとそこまで口に出してしまってから気づく。余計なことまで言ってしまったと。

しかし覆水盆に返らず、である。憂はその瞳を好奇心で輝かせて、身を乗り出してきた。

「つまりあの転校生は霊能力者なのね?」

完全にはき違えている。しかし先ほどの俺の話を聞いただけでは無理もない。根っからのオカルトマニアである憂なら取り違えるのもなおさらである。

「ち、違う!俺の言い方が悪かった!アイツはただの頭がイカれたインチキ野郎だ!ペテンだ、詐欺師だ!」

慌てて弁解を始めるも、もはや憂は聞かない。

「霊山で修験修行をしているのでしょう?しかも『そっちのセンスもある』ってあなたは言ったわ。ますます魅力的ね」

「誤解だ、早まるな!」

憂は俺を無視して離れた場所にいる榊原を見遣って、うっとりした。

「彼のような人には是非、怪奇倶楽部で活躍して欲しいわ」

それだけはやめてくれ!と怒鳴るように返した。放課後まで榊原に付きまとわれるなんて考えただけでも死にたくなる。

しかし憂は俺の声が聞こえなかったような顔をして、入部届を準備しなきゃ…と楽しそうに呟きながら俺から離れていってしまった。


何てこった…。


絶望的な気持ちに沈みながら頭を抱える。面倒なことはごめんなのに、何で自ら墓穴を掘るようなことを。それもこれも、榊原が突然現れるから…。


多少逆恨み的な考えに傾きつつ、俺は榊原の方を睨んだ。するとヤツの方もクラスメイト達に囲まれながらもこちらを見ていた。

榊原は俺と憂の姿を不思議そうな顔で交互に見遣っていた。どうやら先ほどの憂とのやり取りを目撃していたらしい。しかし距離は遠いので会話の内容までは聞き取れていなかったようだ。その表情は俺と彼女の関係性を考えているように見える。

やがて何か思いついたのか、榊原は口元に怪しい笑みを浮かべて俺の目をまっすぐ見つめ返してきた。何もかもわかっていますよ、と見透かしたような目付きに腹が立ち、俺はぶんむくれてそっぽを向く。アイツと関わりたくないし、アイツにあれこれ詮索されるのもごめんだ。


俺の背後にいる榊原達のグループの方から楽しそうな笑い声が聞こえ、俺と無関係な話であることはわかるのに無性にイライラしてたまらなかった。



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