《MUMEI》 八見世物小屋は、フイリプには、まだ夢でも見ていたかのような出来事で、鬼女のような風貌だった妻もすっかり、昔の思慮深い面影を取り戻し、退院していた。 そんなある日、フイリプが、街をふらふらしていると、路地裏の露店の中に、毒々しい色味のテントが張られていた。 テントの周りは、木造建築物と煉瓦の間に挟まれ、足元を引っ張られるような、独特な、雰囲気の、日陰だった。 そこに、踏み込んでは、いけない、という思考もあったが、一方で、磁場のように、強く、引き寄せる力があった。 壁には、あの頃と変わらずに、上りが立てられ、チラシが貼られていた。 前へ |次へ |
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