《MUMEI》
早雲、もとい雪舟は僅かばかり困惑気な顔だ
僅かに溜息を洩らしたと思えば、徐に桜井の頭へと手を置いてきた
「儂と早雲は同じで合って違うモノ。雲の形が常に同じでないようにな」
「……答えになってない気がする」
「そうか？」
「そうなの！大体、あの意地の悪い早雲は一体何所行ったのよ!?」
「ああ。それなら心配するな。朝になれば、戻る」
意外な返答に桜井は瞬間虚を突かれる
状況理解が追いつかず、それでも何とか理解しようと試みた
「つまり、朝昼は早雲で夕夜は雪舟って事？」
「その通り。中々物分かりの良い娘だな」
褒められているのだろうが余り嬉しくはない
だがそれ以上に交わす会話が互いに無く
正面を見据える雪舟の横顔を、桜井はつい眺め見た
「儂の面はそんなに面白いか？」
「え？」
「さっきからずっと見ているだろう？だから」
「ご、ごめんなさい。そういう事じゃなくて……」
「じゃぁ、何だ？」
問い質され、だが桜井は答えて返す事が出来なかった
理由など無かったから
唯、眺めているとやはり早雲の面影もある、そんな事を思ってしまっただけで
桜井はあからさまに視線を逸らす
「……解らん娘だ」
「うるさい！馬鹿ぁ！」
「……二人とも、言い合いをするのは構いませんが、くれぐれも屋根から落ちない様にしてくださいね」
二人の言い合いも随分な精良になってしまった頃
聞くに聞きかねたらしい雨月が顔をのぞかせてくる
「……別に、言い争ってなどいない。この娘が勝手に喚いているだけだ」
「そう、でしたか？」
憮然とした表情で答える雪舟に、漂々と返す雨月
興奮に息を荒げる桜井へ、落着いて下さいと穏やかな笑みを浮かべた
「すみません、どちらも悪い奴ではないんですよ。……そうだ、歩さん」
唐突に何かを思い立ったのか
桜井の耳元へと唇をよせ、そして
「雪舟を連れて散歩、してきてはもらえませんか？」
との申し出
行き成りのソレに小首を傾げて見せれば
雨月お得意の笑みを向けられてしまう
お願いしますね、とその笑顔で頼まれてしまえば咲らいに否は返せない
その意図も目的も解らないまま
桜井と雪舟は連れ立って散歩に出掛ける事に
だが歩く最中も互いに交わす会話はなく、気不味さばかりが漂う
何か話題を、お内心動揺するばかりの桜井のソレを感じ取ったのか
雪舟が徐に脚を止め
「……お前、雪は好きか？」
唐突な質問
余りに唐突過ぎて答えられずにいると
雪舟の手が桜井の頬へと触れてきた
ひやり、冷たい手
その冷たさに無意識に身を竦ませてしまえば
「……やはり、嫌か」
否と捉えたらしく手を引っ込める
そして身を翻したかと思えば、また足早に歩く事を始める
「せ、雪舟！」
何所へ行くのか、引き留めようと身を乗り出す桜井
そして有りがちな展開で、脚を縺れさせてしまう
傾く身体
咄嗟に支えようとしたが間に合わず、傾いてしまう身体
後は重力に任せ、地べたに叩き付けられるだけで
その衝撃に少しでも耐えようと眼を固く瞑る桜井
だが(その時)はいくら待てども訪れるなかった
恐々眼を開いて見れば
「……落着きのない娘だな」
呆れた様な雪舟の顔が目の前
口は悪いが早雲動揺に整っている顔を間近に寄せられ
桜井は顔を真っ赤に動揺し始めてしまう
「……おい。大丈夫か？」
「だ、大丈夫！」
動揺し、慌て始め雪舟とあからさまに距離を取った
その桜井の様子に、互いに無言のまままた歩き始め
雪舟の後ろをついて歩いて居た桜井はゆるりと口を開く
「……嫌いじゃ、ないから」
「は？」
「アンタ、さっき聞いたでしょ？雪、嫌いかって」
その返事だと返してやれば、雪舟は漸く納得したのか
僅かに口元を緩ませた
「そうか」
短いその一言でそれ以上語る事はなく
また無言になると不意に桜井の肩を抱いてきた
「!?」
唐突のそれに驚き、雪舟の方を見やれば
雪舟は何を言ってやる事もせず桜井を横抱きに
更に驚く羽目に鳴った桜井に構う事もせず
雪舟はあろう事か地面を蹴りつけたかと思えば、高く宙へと飛び上がった
今まで自身が立っていた地面がはるか眼下
「せ、雪舟!?」
「……お前に見せてやろう。(ひまわり)何をすべきなのかを」

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