《MUMEI》
藤衣
光は父を知りませぬ。とても美しい更衣だった。人々は口々にいいます。
桐壺の帝が年若い藤壺様をお迎えになりました。
みな、光の父であった更衣に瓜二つだといいます。
光は御所の片隅に引き取られました。
御所には沢山の人々がおり、沢山の書物がありました。
光は人々と書物から色々な事を学びました。
父が健在であったらと思う日もありました。
その日は初夏になりかけねまぶしい日差しの日でした。
藤の花が美しいと小耳にした光は普段、禁じられた、藤の庭に忍びこんでいました。
館からは桐壺の帝と別の若い男の姿がうかがえました。
その若い男は世にも美しい姿をしていました。
この庭は藤の庭。あの方が藤壺さま。
まだ幼い光の心を虜にしてしまったのでした。
それが初恋であることをまだ知らずに。
そして大きな過ちの始まりであるともまだ誰も知りませんでした。

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