《MUMEI》

 雑音混じりのラジオから、今日から(その日)が始まるのだという事を知った
一年に一度、に名が待ち侘びている(その日)
だが今し方それを聞いていた羽野 秋夜はさして興味を示すでもなく
溜息を僅かに付くと、ラジオを切っていた
「……下んねぇ」
短く愚痴ると、腰を掛けていたベッドから身を起こす
何の気なしに外へと出てみれば普段は死んだ様に静かな街中が(その日)に湧きだっていた
「秋夜!」
突然に背後から抱きつかれ
さして驚く事もせずにそちらへと向き直ってみれば見知った顔が
「……和人。お前な……」
「今日からだな。Black stones!」
回りの雰囲気にのまれやけにテンションの高い知人
だが羽野はその騒動の中にあっても至って冷静で
騒ぐばかりの群衆に背を向けると歩く事を始めていた
その後を追って、知人である岡田 和人が小走りに付いてきていた
「な、なぁ!秋夜」
「何だよ?」
衣服の裾を掴まれ、その引きに僅かに首を巡らせれば
和人の表情も周りの人間同様、興奮に少し赤らんでいる
ヒトが何故このBlack stonesとういう催しにこれ程までに熱を入れるのか
羽野にはいまいち理解が出来ないでいた
そもそもこの催しが始まったのは数年前
国の上層部が提唱した(新都市)構想
まるで夢物語かと思う様なソレは莫大な金と労働力を使い、すぐ様形となった
生活の質が今の街よりも遥かに上質だとの噂に
民衆がその新都市を望まない筈はなく
移住希望者が殺到する事となった
その余りの多さに上層部も処理しきれなくなり
ある日、とあるゲームの開催が決定した
ソレが、Black stones
その勝者一命を、褒美と称して新都市の住人とす
話しを聞いた住民たちは皆その権利欲しさにゲームに没頭するという訳だ
「秋夜って、本当興味なさげだよな」
「は?」
辺りに溢れ返るヒトを半ば呆れた様に眺め見ていると
不意に和人からの声
何の事か、と怪訝な顔をして見せれば
「皆、このゲームに夢中になってんのに、秋夜って何かいつ無関心だからさ」
苦笑を浮かべながらのこの言葉
確かに、興味薄ではあるのかもしれない
この、属に言う(旧都市)と称される場所での生活に別段不便さも不自由さも感じてはいなかったからか
その指摘には素直に納得がいった
「ま、俺はこの通り興味ないから。お前は、頑張れよ」
愛想笑いに口元を僅かに緩ませ、羽野はそのまま踵を返す
人混みを掻き分け来た道を戻る最中
不意に背後から伸びてきた手が羽野の肩を掴んだ
「よぉ。そこの可愛いお嬢ちゃん」
揶揄の声を聞き、怪訝な表情で首だけを振り向かせれば
其処には見覚えのない男
だが触れられている肩から、何故か不愉快な感覚が全身に広がっていき
羽野は慌ててその手を振り払っていた
「そんな邪険にしなくてもいいでしょ。ね、俺と遊ぼうよ」
またその手首を掴まれ、強引に引き寄せられる
更に深まる違和感
身体の奥其処に寒気すら感じた
何とか振り払おうとした次の瞬間
不意に、横からのいbてきた別の手に引き寄せられていた
「!?」
「これ、俺のだから」
勝手な言葉が聞こえてきたかと思えば、突然に抱きすくめられて
抵抗しようにも存外強い力に叶わず、叫んでやろうとした口は相手の手でふさがれた
「んぅ……!」
そのまま引き摺られ、細い路地へ
連れ込まれたかと思えば暫くそのままで
塞がれたままの口がいい加減息苦しさを訴え、相手の背を殴りつけてやった
「おっ、悪い悪い」
さして悪びれた様子のない口先だけの謝罪
漸く解放され、相手と極端に距離を取る
「そりゃ、流石に傷つくぞ。オイ」
「何がだよ」
「そんな露骨に距離取る事ねぇだろ。一応は助けてやったってのに」
「……頼んで、ない」
顔をそむけてしまえば
すぐ傍らで肩を揺らす気配
何となく小馬鹿にされている缶が否めない
関わり合いになのは面倒だと、そのまま踵を返せば
「おい、何所行く気だ?」
どうしてか後を付いてくる
何故に付いてくるのか訊ねようと身を翻そうとした、次の瞬間
何処からか、低い悲鳴の様なソレが聞こえてきた
「!?」

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