《MUMEI》










鈍く低い音が体育館を浸透させた。

ボールは勢いよく千尋の顔面にめり込み、それからのちゆっくりと重力に従って地面に落ち、タンタンと軽く弾んだ。

周りの生徒全員が口をあんぐりと開け間抜け面、






苛立ちに身を任せ勢いで動いた花笑はこの状況をどうやり過ごそうかと、ボールを投げた構えのまま固まっていた。


目の前の男は微塵も動く気配がない


それが逆に怖くて顔を上げられずにいる









「…………………………あのさぁ、」

「!!」










感情が読み取れない声色に少なからず肩が揺れる……。



空気はピンッと張って、蜘蛛の巣の上に立っているような感覚だ








「ちょっと行き過ぎたなとか思わないの?ねぇ、今僕がやられたことと同じことしてあげようか…フェアにならないような痛さに驚くと思うよ?」

「…………すん…ません」

「はぁ?聞こえな―い」










どす黒い千尋の雰囲気に辺り一面が引きつった表情を見せる。勿論花笑も同様、


ただ一人、含み笑いをする葵を除いては…









「ちゃんと謝ることも知らないんだね―君って」

「…………だけど、それはアンタがわざと名前をッ」






言われっぱなしは癪なのでちょっと逆らって強気に見上げると…





「………は?」
「何でもないです」








悪魔の微笑みを見せられ反抗する気力は一気に奪われた。



あぁ、人間こんな顔も出来るんだ、なんて頭の隅でそう感じた花笑は空笑い









「保健室」

「え?」

「連れて行ってくれるよねもちろん」

「……いや、あの」

「連れて行ってくれるよね?」

「喜んで」






その言葉を出さなければ明日が無いと本気で思った花笑、引きづられながら保健室に向かわされる。









「とゆうことで先生、保健室行って顔を冷やしてきますコイツは怪我させた責任として連れていきます」

「わ、わかった」








スタスタ、右手はズボンのポケットに左手は花笑の首根っこを捕まえて当たり前のように引きづって体育館を後にした。





そして二人が去った後、誰かがポツリと



「東堂くんの素顔を見た気がした……」







と、呟いた。














《今のあなたと私の距離0cm》

《今のあなたと私の感情数値-100》










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