《MUMEI》
可愛い笑顔





第2話

可愛い笑顔



















あれからあろうことか本気で保健室まで引きづられ、ちょっとした廊下の掃除に役立ったあたし

泣きそうですよ。








やっと着いた保健室の引き戸をガラリと開け、あたしもようやく解放された。

息も絶え絶えに起き上がり服に張り付いた誇りをはらう














「あれ、いないや」










先に入って行った東堂千尋がキョロキョロ見渡しながら口にした



あたしもその後に続いて保健室内へと入る。












「本当だ。誰もいない……」

「はぁ」









トスン、とパイプ椅子に腰かける千尋












「とりあえずタオルと氷枕的な冷たいの用意してよ」

「………あたし?」










自分に指を向け恐る恐る聞く。すると千尋はさも当たり前のように飄々と












「その為に君を連れてきたんだよ」










そう花笑に投げかけた。花笑は渋々言われた通りに棚からタオル、冷凍庫から保冷剤を取りだし千尋に手渡す












「気が利かないなぁ、ちゃんとタオルで包んでから出してよ」

「………………………チッ」








その偉そうな態度に少し苛立ち小さく舌打ちしてしまい、後から後悔



またもあの笑顔で花笑の頭を鷲掴みし、ギリギリとこめかみを親指で圧迫させる










「いーでででででッッ!」

「なんかさぁ、君とは無駄に鉢合わせるよね―お祓いしてもらおうかな」

「なんの!?なんのお祓い!?」

「災厄」

「最悪!!」









前から思っていたがコイツは葵に匹敵するくらいの毒舌家だ、いやむしろ悪意が込められた感じだから葵よりタチが悪い。

ねぇ、皆コイツの何処がそんなにいいの
わからん、自分にはさっぱりわからん。こんなのと付き合うくらいならみのもんたの方がよっぽどマシだぞ??


はぁ、とため息が溢れた
















「なにため息なんか溢してんの。こっちが溢したいよ」









顔にタオルを巻いた保冷剤をあてながら花笑を呆れた顔で見る。花笑はその様子に罪悪感が募っていき心配になる











「い、…………痛い?顔…」

「今さら何言ってんの、痛いに決まってんじゃん」

「………ごめん」

「それこそ今さら」

「………………………」

「はぁ、今度はだんまりか」












カチコチ 壁にかけてある時計の針の音がやけに室内に響く…

静かな証拠














「……………………………」










話題、

なんか話題はないか……息苦しい、真空の中に放り込まれたかのようだ


う―んと悩む。





いつも周りが喋ってくれる人間ばっかりの中にいたからこうゆうシチュエーションは初めてでとても居心地が悪い。









今日の面白いテレビあるかな?晩御飯何?好きな食べ物は?ギャル曽根の結婚についてどう思う?最近楽しいことあった?



………………………ダメだ!

なんか話題性が微塵もない、苦しい苦しいよォォォ








もうなんでもいい、言ってしまえ!











「お、お父さんが言ってたんだけど、トムとジェリーをネズミと犬って言った人がいたんだって―………」

「……………へー……………」

「……………………………」
















ミスった














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