《MUMEI》

「二郎!由加里ちゃんが赤ちゃん出来たんですって」
帰ってくるなり上機嫌な母さんが出迎えた。


「やー、ジロ。」
由加里姉だ。ちょっと眠そう。昨日の酒がまだ残っているようだ、妊婦が夜通し飲みふけったりなんかして、いいのか?


「こんばんは」
由加里姉の前に座る。


「太郎兄は?」


「盆に向けて買い出し。ジロは学校楽しい?」


「まあまあだよ。」


「恋人は?」
俺の耳元で囁いた。
美作家の遺伝子はやはり美人だ。

「先月別れたよ」


「あら、そうなんだ。浮気された?」


「ノーコメント」
似たようなものなのか?水瀬のことを思い出すと泣きそうになる。


「気にしてたのか?ゴメンゴメン」
笑っている。
絶対反省していない!


「由加里姉は?高校生の頃告白されなかった?」
七生はそういうこと言わなかったのかな。


「それなりに、ね?
でもタロ程イイ男には会わなかった。」
そうか由加里姉がプロポーズしたんだっけ。
太郎兄と由加里姉が結婚だなんて発表されるまで気がつかなかった。

皆血が繋がっている家族だと思っていた。いつのまにか太郎兄と由加里姉は夫婦になっていた。


子供の頃遊んでくれた二人では無くなってしまっていて、そんなことが寂しかった。


乙矢のずっと知っていたかのような反応と七生の苦虫を噛み潰したような表情で自分だけがまだ子供だったことを学んだ。




「タロ、なんだよ急に」
由加里姉は目を丸くして俺を見ていた。
頬に手をやると濡れていた。俺、泣いている?


「寂しかった?」
なんでこうズバッと言うのかな……。


「嬉しいんだよ……二人が両親だなんて超自慢じゃん。羨ましい。」
半分嘘で半分本当。


「あんた達も私達の子供と似たようなものだよ。
タロが良妻あたしが駄目親父、乙矢が長男ジロが次男七生が末っ子。」


「……それ二人にも言ってやって。」




「由加里、買ってきたよ。」タロ兄が帰って来た。


「兄さん、姉さん、おめでとう。」
二人が結婚したあの日、素直に贈れなかった言葉を心から返そう。

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