《MUMEI》
恥ずかしがりな彼女
陽菜は憎悪に満ちた表情で僕を見て、もう一度平手打ちをして歩き出した。
僕は急いで陽菜の後を追った。

「待って、待ってよ!」

何故、陽菜があんなに怒ったのかわからなかった。
僕は陽菜に、言われた通りのことをしただけなのに……。


あんな表情…初めて見た。


ティッシュを持って来ていいなんて言われてないのに、勝手な行動をしたから?
冗談で言ったのに、僕が本当にオナニーをしたから?



暫く考えてから僕は、ハッとした。







もしかして陽菜…、恥ずかしかったの?
僕が本当に、陽菜の恥ずかしいとこ見るとは、思ってなかったから…。


じゃなきゃ僕に、あんな表情を見せるわけがない。
好きな人に恥ずかしいモノを見られて、恥ずかし過ぎて素直になれなくて、あんな行動をとったんだ。

素直になれないのも、陽菜の可愛らしい行動…。
なのに僕は、気の利いた言葉も言ってあげられなくて…。

ちゃんとフォローしてあげなきゃいけなかったのに…、僕はダメだ…。

(謝らなきゃ…)

そう思って僕は、走って陽菜を追いかけた。

「陽菜、待ってよ!…ごめん、僕が悪かったよ。反省してるから許して?」

陽菜が立ち止まった。

「ほんとに…ごめん」

そう言うと陽菜は、振り返って微笑んだ。

「いいの、気にしないで?アンタは人のオシッコが好きなんでしょ?… 覚えとく」

それだけ言うと、陽菜はまた歩き出した。



それから学校まで、陽菜は何もしゃべらなかった。

このまま、口きいてくれなかったらどうしよう…。


そう考えたら涙が出そうだった。

「……ごめんね?…陽菜、ごめんなさい」

自分の教室に入ろうとする陽菜に僕は、もう一度謝った。
だけど陽菜は僕と目も合わせないまま、教室に入って行ってしまって…仕方なく、僕も教室に入った。

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