《MUMEI》
暗い1日
僕は後悔の気持ちでいっぱいだった。
机に座って、あんなことをした 自分を恨んだ。
そして、ふと気付いた。


佐野さんがいない。
もう、とっくに登校しててもいい時間なのに……まさか、佐野さんも怒ってるんじゃ…





その日、僕は気が気じゃなくて、最悪な結末まで考えてしまった。

もし佐野さんが怒っていて、本当の僕を学校にバラしたら、僕は退学になるかも知れない。

退学になったら陽菜とも、あまり会えなくなる。

いや…。
もしかしたら“あまり”じゃ済まないかも知れない。




陽菜のこと、佐野さんのこと……。
僕はどうしたらいいか、わからなかった。








…──昼休み、悩む僕を呼ぶ声が聞こえた。
振り返ると、そこには佐野さんが立っていた。

「おはよ」

佐野さんは、いつもと変わらない様子だった。

「お昼、一緒に屋上で食べない?」

食欲なんてなかったけど、佐野さんともちゃんと話さなきゃと思った僕は、佐野さんと屋上に向かった。


佐野さんは屋上の隅の方に座ると、僕を手招きして呼んだ。
僕が隣に座ると、佐野さんは恥ずかしそうに言った。

「今日ね、体がダルくて起きれなかったんだ」

「…そうなんだ」

「それに、まだヒリヒリしてて…それで遅刻しちゃったんだ」

「……そっ…か」

僕は佐野さんの言ってる意味がわからなかったけど、なんとなく話を合わせた。

「あたし、まだ信じられないんだよ?」

「え?」

「眞季ちゃんが男の子だってこと」

「え?あ、あぁ…」

「だって、こんな綺麗な顔の男の子、見たことないもん」

そう言って佐野さんが、僕の手に手を重ねてきた。

「心配しないでね?あたし、誰にも言ったりしないから」

「……ありがとう」

佐野さんの言葉に、安心した。

「でも…初めてが眞季ちゃんで良かった」

なんて答えたらいいかわからなくて黙っていると、佐野さんが僕の顔を覗き込んだ。

「どうしたの?元気ないみたい…」

「そ、そうかな」

「うん……なにかあったの?」

僕の頭に、陽菜の怒った顔が浮かんだ。

「話、聞くよ?」

話したかった。
陽菜を怒らせてしまったこ と…。どうしたら許してもらえるか聞きたかった。
でも、なんて言ったらいいかわからないし、佐野さんに陽菜の気持ちなんてわからない…。



せっかく童貞を捨てて……陽菜に近づいたのに、陽菜が僕から離れてしまう気がして…。



気付くと僕は泣いていて……。





次の瞬間、僕は佐野さんの腕の中にいた。

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