《MUMEI》
勇気
「……ごめん」

息を切らしながら謝る僕に、陽菜が平手打ちをした。

「遅いんだけど…。待つの嫌いだって言ったでしょう!?」

「ごめん…」

「…コンビニ行ってきて」

「今から?」

「そう、コンビニに行ってゴム買ってきて」

「ゴム?」

「…そう、コンドーム……買ってきて」

あの男と使うんじゃないか…。
陽菜に言われ、僕は思った。





そんなの嫌だ……絶対に嫌だ…。






「…ねぇ、まさか知らないなんて 言わないよね…コンドーム、わかるでしょ?戸村さんは変態だもん、そういう知識は豊富な筈よね?」

「知ってるよ…知ってるけど……嫌だ」

僕は勇気を振り絞って言った。
こんなにはっきり断ったのは、初めてかも知れない。
緊張で喉の奥が張り付いたようになってて、上手く声になってなかったけど…それでも、陽菜の耳には届いた筈だ。

「ふぅん…あたしに逆らうの?」

陽菜が目を細めた。

「じゃ、じゃあ……教えてよ」

僕は必死だった。
心臓は、陽菜にまで聞こえるんじゃないかと思うくらいに激しく脈打っていた。

「なにに使うの?僕がそれを買ってきたら何に使うの!?」

「…そんなこと聞いてどうするの?ってゆうか…アンタにそんなこと聞く権利ないでしょ?」

「あるよ!」

僕は声を荒げた。
だって、僕は陽菜のモノで陽菜は僕のモノなんだから…、僕たちの間に隠しごとなんかあっちゃいけないんだ…。
だから、僕には陽菜を知る権利があるんだ。

「ねぇ、さっきの男は誰?陽菜のなに?」

僕が聞くと、陽菜は溜め息をついた。

「くだらない……買ってこれないならいいよ、アンタなんか要らないから」

そう言うと、陽菜は家に入って行った。


僕は家の前で、陽菜が出てくるのを待った。
ちゃんと話しをしなきゃいけない…。
くだらなくなんかない。
それに、あの男がいつまた来るかわからない。




…──けど、夜になっても陽菜は出てこなかった。
あの男も姿を見せない。 仕方なく僕は、自分の家に帰った。





家に帰ってからも僕の頭は、あの男のことでいっぱいだった。
それと陽菜のあの言葉……。
“要らない”なんて、本心じゃないだろうけど…。









その日、僕はあの男のことを調べることにした。

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