《MUMEI》
裏切り
その日、僕は家に帰らないで最寄り駅の近くにあるファストフード店にいた。
僕の目線の少し先には陽菜がいて、その隣には…










真鍋がいた。







僕に気付いてないのか、陽菜と真鍋は少しぎこちない感じだけど、楽しそうに何かを話している。


ときどき体を寄せ合ったりしながら……。







陽菜の用事って? 二人の関係って?


陽菜… 嫌じゃないの?
僕以外の男といて楽しいの?
僕以外の男に、そんなに近付いていいの……?










いろんな考えが僕の頭を駆け巡り、体に異変を感じた。



目の奥がチリチリして、冷たいのか熱いのか、わからない。
体全体が心臓になったみたいに、バクバクして体の中が熱い。


今まで陽菜に虐められて、体が熱くなる感覚はあったけど、そんなのとは全然別の感覚…。


自分でもわからない体の異変を抑えながら僕は、ファストフード店を出た二人の後をついて行った。


陽菜は用事があると言っていたのに、二人はどこに行くわけでもなく、そのまま陽菜の家に向かった。


家に着くと陽菜は、今まで見たことのない笑顔で真鍋に手を振った。
声は聞こえないけど、何か喋っているのはわかった。


そして家に入ろうとする陽菜の腕を、真鍋が掴んだ次の瞬間、真鍋の唇が陽菜の唇に触れた。
陽菜は恥ずかしそうに俯いて、 首を横に振ってから頷いた。











笑いが止まらなかった。
何が可笑しいのかなんてわからないけど。


込み上げてくる笑いを止めれず、僕は笑いながら家に帰った。








真鍋が、僕たちの関係を壊した…。


陽菜が僕を裏切った。


僕たちは、今までみたいにやっていけない。


僕たちは壊れたんだ。


壊れてしまった筈なのに、涙も出ない。
ただ可笑しいだけ。 笑いが込み上げるだけ。




ただ、それだけ。
それが、正常な僕の最後の姿。

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