《MUMEI》 遠い過去学校の帰り道、僕は泣いていた。 「大丈夫?どっか痛い?」 泣き続ける僕の頭を、陽菜が撫でた。 「困ったねぇ…学校に戻って保健の先生に診てもらう?」 埃だらけになったランドセルを背負った僕は、首を左右に振った。 なんでランドセルなんか…。 これは…夢…? 「おうち…帰ろっか」 埃まみれになった僕のランドセルと服を払いながら、陽菜が言って僕は頷いた。 「大丈夫だよ、泣かないで?眞季にはあたしがいるよ?」 陽菜が微笑む。 「あたしが守ってあげるから、眞季はひとりじゃないよ?」 そうだ…。 「ずっと一緒にいるから」 そうだった。 陽菜は僕と、ずっと一緒にいるんだ。 陽菜だけは、僕をわかってくれてた。 あの時だって…… 「うわっ!汚ぇな!!コイツ漏らしたぜー!」 休み時間、トイレに間に合わなかった僕は、教室でオシッコを漏らした。 ずっと我慢してた。 ずっとずっと我慢して、本当に限界で、授業なんか耳に入らなくて、僕は時計ばかり見てた。 チャイムが鳴って、先生が教室を出た瞬間、トイレに駆け込もうと立ち上がったら…… もう遅かった。 太股に温かいものが流れて…、隣の席の女子が叫んだ。 それから教室中が大騒ぎになって、僕をいつもいじめる佐伯くんが大声で言った。 「くっせぇ!眞季ちゃんが、お漏らしした〜!」 男子たちが笑い、女子は「汚い」とか「やだ」とか言いながら、僕を見ていた。 陽菜……、 見ないで。お願いだから見ないで。 心の中で願った。 陽菜に嫌われたくない、こんなカッコ悪いとこ、見られたくない。 悲しくて、情けなくて、涙が出てきた。 「あはは!目からもオシッコ出た〜!!」 佐伯くんの声が聞こえた。 我慢したのに… 頑張って我慢したのに… こんなに我慢できたのに、なんで… 「ちょっと、どいて」 陽菜の声がして、僕は顔を上げた。 雑巾を持った陽菜は、僕を囲む男子たちを押し退けて僕の元に来ると、僕の足元にできた水溜まりを雑巾で拭いた。 それから雑巾を洗って、僕の体操服を持つと「行こ?」と言って僕の手を引いて、教室を出た。 「……汚く…ないの?」 前を歩く陽菜に言った。 陽菜は振り向くと、笑った。 「大丈夫だよ、しょうがないじゃん、ずっと我慢してたんだもん」 まるで僕の心を読んでいるような陽菜の言葉に、僕はまた泣きそうになった。 「それより気持ち悪いでしょ?早く保健室行って着替えよ?」 保健室に着くと陽菜は保険医に、着替えさせて欲しいと言った。 僕を見て保険医は「あらあら」と、言った。 陽菜は保険医を無視して、保険医よりも早くベッドに行ってカーテンを閉めた。 そして保険医に渡されたビニール袋を、僕に渡した。 「ここに服入れて持って帰るんだよ?」 僕が頷くと、陽菜は小さな声で言った。 「内緒だけどね、あたしもしたことあるんだ、だから大丈夫、眞季だけじゃないよ」 陽菜も、したことあるんだ…。 陽菜もオシッコ、するんだ…。 そう考えたら、変な気持ちになった。 陽菜はどうやって、オシッコするの? どうやって、お漏らししたの? お漏らしして笑われた?泣いた? 陽菜… 陽菜…陽菜… 陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜陽菜 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |