《MUMEI》
自分の意思
 
 
 
 
 
…あれは中学の頃だった。



イジメが始まって、どんどんその行為がエスカレートし出した頃、僕は佐伯に呼び出された。





──両親が開業医の佐伯の家 は、まさに豪邸といった感じで、佐伯の部屋も殺風景だけど、おしゃれで広くて、高級感が漂っていた。


そんな高級感漂う部屋に置かれた革のソファーで、佐伯がふんぞり返って座っている。 僕はというと、佐伯の前で情けなく正座をしていた。

「オマエさ、今森と仲いいだろ?昔からくっついて歩いてたもんな?」

「…うん」

「うん、じゃねぇよ…はい、だろ?」

肩に、佐伯の蹴りが入った。

「…はい」

僕が佐伯と会話するときは、敬語じゃなきゃいけない。 同級生に敬語を使うなんて、惨めだけど…敬語を使わないで、 蹴られたり殴られたりするよりは、マシだ。

「いいよな…あいつ」

“あいつ”なんて呼ぶなよ…。

「オマエさ、陽菜紹介しろよ」

ふざけんな…。
オマエなんかに、陽菜を紹介してたまるか…。

気安く“陽菜”なんて、呼ぶなよ…。

「聞いてんのかよ」

また佐伯の蹴りが、僕の肩に入った。“蹴り”というより“かかと落とし”と言った方が、正しいのか?

「陽菜を紹介すれば、オマエで遊ぶのやめてやるよ」

偉そうに…。
気安く“陽菜”なんて呼ぶなって、さっきも言っただろ……。

「おい、戸村ぁ!聞、い、て、 ん、の、か、よ!」

黙っていると、何度も佐伯のかかと落としが、僕の肩に入る。

いつもの僕だったら「わかった」 と、答えていただろう。

けど…、陽菜が関わったら話は別だ。

「…嫌だ」

言った。

佐伯に逆らったことなんて、一 度もなかったのに、同級生に自分の意思を伝える度胸なんて、 全くなかった僕が、堂々と断れ た。

「あ?」

佐伯が、すごんだ。

「だから…、陽菜を紹介することは…でき、ない」

「オマエ、誰に口聞いてるかわかってんの?」

「わかってる…わかってるけ ど、陽菜は…陽菜だけはダメなんだ…だから…」

僕が、そこまで言ったのを聞いてから、佐伯はゆっくり立ち上がって、その立ち上がったときの速度とは裏腹に、すごい速さで僕を殴った。


それからは殴られたり、蹴られたり…僕は、サンドバッグのようになっていた。

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