《MUMEI》
意地
「陽菜を…、連れて来る気に…、 なったか?」

呼吸の乱れた佐伯が、そう言いながら、ソファーにドカッと座った。

「…な…は、陽菜…はダメなんだ…許して、ください」

「はァ!?」

佐伯が呆れたような、驚いたような声を出した。


知ってんだ…。


僕は知ってる。


佐伯が取り巻きから、女友達や彼女を紹介させて、酷い目に遭わせてること……。


佐伯は自分が、価値ある人間だってわかってる。 女が自分に夢中になるのに、そう時間がかからないことも、わかってる。


でも佐伯は女をアクセサリーか、金としか見てない。


いい女を連れて歩いて、飽きたら体を売らせて、金を巻き上げてるんだ……。

陽菜は、そんな目に遭わせない。


陽菜は僕が、守るんだ。

陽菜が佐伯のアクセサリーなんて、勿体無い。

「…わかったよ」

佐伯が大きく息を吐きながら、 言った。

やった…!

昔、漫画で見たことがある。


何をやらせても駄目な、パッとしない冴えない主人公と、未来から来たロボットというより、ペットのような外観のロボットの話。


主人公の未来を変えようと、未来から来たロボットが繰り出す様々な道具で、いろんな冒険をしてき た彼とロボットは、やがて“親友”と呼び合う仲になるのだが、そんな二人に別れの時は突然やってきた。


どうしても未来に帰らなければいけないロボットが、安心して未来に帰れるように、彼はいじめっ子と戦う。


今までいじめられていた彼が、いじめっ子に適う筈もなく、彼はボロボロになったが、それでも向かってくる彼に、いじめっ子は、とうとう負けた…という話。


まさに、今の僕は冴えない彼と、同じ状況なんだ……!


佐伯は僕に負け、僕は佐伯に勝った。


僕は陽菜を守れたんだ!!



僕は心の中で、ガッツポーズをした。
「女みたいな奴」なんて言われて、イジメを受けてきたけど、僕だってれっきとした男だ。


好きな娘ぐらい、守れる。


そう自分に自信を持った瞬間、

「そんなに大事なら違う方法で仲良くするわ」

と佐伯が言った。



違う方法…?



意味が理解できない僕の傍に、佐伯がソファーから立ち上がって、 僕を覗き込むようにしゃがんだ。

「あいつをオマエの見てる前で犯してやるよ」

「…っ、あ゙ぁぁああぁあ゙ あッッ!!!!!」

佐伯の言葉を聞いた瞬間、頭の中で何かが切れた感じがして、 僕は叫びながら佐伯に向かっていた。 いつもは怖くて、刃向かうことのできない筈の佐伯が、ちっとも怖く感じなかった。


それほど僕の頭は、怒りでいっぱいだったんだろう。

…なのに、僕の怒りの鉄拳は、簡単に避けられて、変わりに背中に一撃を食らった。

「熱くなんなよ、おかしな声あげて気色悪ィな」

佐伯が笑う。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫