《MUMEI》
欲望
 
 
僕は今、自分の部屋にいる。
目の前には、陽菜がいる。


僕の初恋の人、陽菜。
その陽菜が目の前にいる。
いつもみたいに、僕を見下したような目で見ている。

「話ってなに?話さないなら帰っていい?」

どうしても話さなきゃいけないことがあるから。 そう言って学校帰りの陽菜を呼び出した。


陽菜が部屋に来てから、一時間は経つ。
陽菜は、ずっと黙っている僕に、苛立っているようだった。
床に座る僕を、ベッドに座って見下ろす陽菜は苛々して、眉間に皺を寄せている。



けどそんな陽菜も、触れてはいけないんじゃないかと思うくらいに、綺麗だった。

「もしかして…男だってバレた?」

鈴のような声……。
僕の陽菜は、どれを取っても完璧だ。







いや……






“完璧だった”と言った方が、正しいか…。








僕の陽菜は、壊れてしまったんだから。




真鍋の汚い手で…。




僕たちの関係も…。






「もしかして佐野さんを好きになっちゃった?」

そういたずらっぽく笑う陽菜のスカートから伸びる細くて長い足に、僕はそっと触れた。
陽菜の綺麗な肌は、僕の手に吸い付いてくるようだった。

(陽菜にさわれた…)

そう思った次の瞬間、陽菜の蹴りが僕の顔面を直撃した。

「いたッ!!」

「なにしてんのよッ!!」

僕は怒鳴る陽菜に、抱きついた。








もう、いいんだ……。
僕はもう、陽菜の犬でいれないから…。
陽菜は僕を、捨てる気でいるから…。
だから、どうだっていいんだ…。
捨てられる前に、陽菜に触りたい…。











自分の欲のままに……。











「いやあぁぁぁああッッ!!!!!」

陽菜が、鼓膜が破れてしまうんじゃないかと思うくらいの悲鳴をあげ、暴れ出した。
だから僕は、強く抱きしめて、

「大丈夫、大丈夫だよ、陽菜…恥ずかしがらないで」

と、なだめてあげた。
すると陽菜は、暴れながら叫ぶように言った。

「ふざけないで!!なんでアンタみたいな変態相手に恥ずかしがんなきゃいけないのよ!放してよッ!!」

陽菜の言葉に僕は思わず、力を緩めた。
陽菜は僕から離れ、部屋の隅に逃げた。

「……どういうこと?」

「そのまんまでしょ!?なんで恥ずかしがる必要があんのよ」

「だって、陽菜は僕のことが好きなんでしょ?」

そう聞くと陽菜は、顔を引きつらせて笑った。

「は…ははっ、よくそんな勘違いができるよね…そういうとこが無理なの!どこでそんな考え方ができたのよ!バカじゃないの!?」

「だって…いつも一緒にいたじゃないか!僕と陽菜は一心同体でしょ?どっちが欠けてもダメでしょ?」

陽菜は頭を掻きながら、深い溜め息を吐いた。

「もう、わかったわよ…ちゃんと説明してあげなきゃわかんないみたいだから説明してあげる」

そして、ゆっくり話し始めた。

「仲良くしてたのは昔の話。幼なじみだし、くだらない理由でいじめなんてする子たちも気に入らなかったから庇ったりもした。でもアンタ…おかしいんだもん」

「……おかしいって?」

陽菜は少し迷ったふうに下を見てから、僕を見た。

「ねぇ、あたしが何も知らないと思ってる?あたし、知ってんだよ?」

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