《MUMEI》 事件小学五年の春ぐらいから、 私の身の回りで、 おかしなことが起き始めた。 下駄箱にあった筈の靴や、上履き。 教室に置いてあったリコーダーや体操服。 それだけじゃ飽きたらず、私が使っていたペンや消しゴム。 私の身の回りの物が、次々に失くなっていった。 最初は、なにも疑ってなかった。 けど、あまりにも多い量と早いペースで失くなっていくのを見ていると、誰かを疑わずにはいられなかった。 誰かに嫌われてるんじゃないか、兄と毎日のようにする『遊び』が誰かに知れて、私みたいな汚い子が近付かないように、みんなで協力してやってるんじゃないか。 悪い考えは、いくつも出てきて…… 私は、人間不信に陥りそうだった。 ──眞季以外のクラスの全員を疑いながら、夏になった。 まだ、犯人は突き止められずにいた。 そしてある日、体育の授業で水泳をした日。 私の我慢は限界に達した。 夏になって水泳の授業が始まってから、私は二着の水着を買っていた。 最初の一着目は、今まで通り失くなっていた。 それでも私は我慢したのに…。 母親に、同じ物を何度も買わせるなと怒鳴られ、兄に『お仕置き』と称した暴力を受けても耐えたのに…。 誰かの嫌がらせは止まることなく、私の下着までどこかに消えた。 下着まで失くしたら、母になんて言われるかわからない。 兄に何されるかわからない。 家に帰る恐怖と、下着も穿かないで家まで歩く恥ずかしさで、私は初めて学校で泣いた。 眞季と出会ってから、家以外では泣かないと決めていた。 だから必死に堪えるのに、涙は次から次へと零れてくる。 次第にクラスの子たちが、私の周りに集まって来た。 「どうしたの?」 「陽菜ちゃん大丈夫?」 心配そうに掛けてくれるみんなの声も、私は信用できなくて何も話せなかったが、涙でぼやけた私の視界に映る眞季を見て、 私は眞季に駆け寄り、抱き付いた。 眞季の温かい手が背中に触れ、 私は少し落ち着けた。 「…一緒に…帰ろ?」 眞季の小さな声に、私は頷いた。 ──帰り道、草むらの中を探しながら歩く眞季が愛おしかった。 そんな場所にある筈ないのに、 眞季の一生懸命な姿が嬉しくて…、私は眞季がいてくれたらいいと思った。 どんなに辛いことがあっても、眞季が助けてくれる、眞季だけは私を裏切らないと思った。 前へ |次へ |
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