《MUMEI》
陽菜の言い分
「…さ…ぃ…」

陽菜の口から言葉が発せられたけど、その声は小さすぎて、こんなに近くにいるのに聞こえないくらいだった。

「なに?聞こえないよ?」

僕は陽菜の小さな口を指で撫でながら、優しく聞いた。
すると陽菜は、目からボロボロ涙を零しながら、子供みたいに泣き出した。

「ごめ…ん、ごめん…なさぃ…… もう、あんなこと、しないから… 許して」

「あんなことって?」

「怖かったの…すごく、怖かったの…あたしの物で、あんな、ヘンなことして…毎日部屋覗いたりして、るし…高校だって、一生懸命勉強して、…やっと離れられるって、思った、のに…」

「そうだよ…、いつでも陽菜といられるように頑張ったんだよ?だから今、こうしてられるんでしょ?」

「そういうのが怖かったの!だから、あたし…」

「わかってるよ、大丈夫…女のフリさせられてきたのも陽菜の前で他の女としたのも、今までのこと全部…陽菜が喜んでくれてるって思ったら興奮できたから気にしてないよ…でも、浮気は許せないんだ」

陽菜は、すっかり脅えきっているみたいだった。

「怖がらないで…そりゃ、お仕置きは怖いかも知れないけど…それは陽菜が悪いんだもん…我慢しなきゃ……終わったらちゃんと優しくしてあげるから… ね?」

陽菜はまるで、いやいやをする子供のように首を振っている。
僕はそれを無視して、耳を舐めた。

「いやぁッ!いやぁぁあぁあッ!!」

陽菜は足をバタつかせ、暴れた。
僕は陽菜を落ち着かせる為に、髪を優しく撫でてあげた。
撫でる度に鼻をくすぐる甘い香りに酔ってしまいそうになる。

「お願い、やめて!話聞いて!あたし……」

「大丈夫だよ、陽菜…初めてだもんね?それも僕がちゃんと教えてあげるから…ちゃんと勉強したんだよ、陽菜の為に」

陽菜は乱れた呼吸を整えるように、大きく息を吸って、吐いた。

「…初めてじゃ……ない」

予想外の発言に驚いた僕は、陽菜の顔を覗き込んだ。
真実かどうか確かめる為に。

「陽菜…処女…でしょ?」

陽菜は目を伏せた。

「やめてよ…、あたしを美化しないで。処女なんてとっくに捨ててるし、セックスなんかに抵抗ない…でも今は違うの」

「なにそれ…?」

そう言っている陽菜の瞳は、精気が感じられなくて人形みたいだった。
でも、そんな陽菜も綺麗で…僕は少し戸惑った。

「先輩と付き合ってるって言ったでしょ?初めてなの…こんな気持ちになったの…」

陽菜の言ってる意味が、理解できない。

「誰としても変わらない、あんなの汚いだけって思ってたのに、今は先輩以外の人に触られることに抵抗あんの…それに…」

陽菜は、まだ何か言ってるみたいだったけど、すごく遠い場所で話してるみたいに、声が小さく聞こえて、何を言ってるのか全く理解できなかった。







キスだけじゃなくて、セックスもしたってこと……?
陽菜は…あんな奴に、体を許したんだ…。












ふざけてる……。
陽菜は勝手すぎる…。
僕が陽菜を真鍋に渡すわけがない、渡せるわけがない。


こんなに陽菜を愛してるのに…。


ずっとずっと、陽菜だけを見てきたのに…。











顔が熱くなって、頭がカーッとして、次の瞬間僕は陽菜に平手打ちをしていた。

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