《MUMEI》
佐伯 和真
私と眞季は、中学に入っても今までと変わらず、一緒にいた。

眞季は相変わらず口数が少ないけど、気付けば傍にいて、いつも私を見ていてくれた。


私たちは何も変わらないのに、周りの同級生たちは制服のせいか、なんだか少し大人びて見えた。
それは小学校からの同級生で、眞季を目の敵にしていた佐伯 和真も例外ではなく、少し背が伸びたように見える彼は、他の小学校から来た女子たちにも、よく囲まれたりしていて…。
彼が女子たちから好かれているのは昔からだけど、なんとなく…全体的に大きく見えた。





「また戸村んとこ行くの?」

休み時間、眞季と待ち合わせしている場所に向かおうとする私に、佐伯が聞いてきた。

「……そうだけど…なに?」

「なんでおまえ戸村とばっかいんの?」

「関係ないでしょ?」

「付き合ってんの?」

この頃、私の家は今までより酷くなっていた。


母親は男を繋ぎ止めとく為に、私に男の相手をさせた。
兄は友達と一緒に、私を玩具として扱った。


兄たちのおかげで、私は恋愛なんてものに全く興味が持てないのに、学校に行けば恋愛の話に繋げる同級生ばかりで、私は少しうんざりしていた。
だから佐伯の質問に対しても“この人も、そういうお年頃なんだ”そう思った。

「そういうことしか頭にないの?」

「いや?…てゆうかさぁ」

佐伯が笑った。

「おまえら二人でいたらレズと間違われんじゃね?」

「…アンタみたいな人を猿って言うんだろうね」

そう言って睨むと、佐伯は口の端を上げた。

「俺が猿なら眞季はなんだろな?変態?」

私は『変態』という言葉に、敏感になっていた。
兄に毎日のように言われて、嫌な思いをしている言葉だから。


だから私にとって大切な存在の眞季に、そんなことを言った佐伯が許せなかった。


私の中の眞季は今まで以上に、とても大切な存在になっていたから。
眞季といて何かするわけではなかったけど、傍にいてくれるだけで、あの嫌な匂いのする体液や気味の悪い声…。
全てを忘れられた。


眞季だけは、私に気持ち悪いことをしない、恋愛なんてつまらない話もしない。
佐伯みたいな人を傷付ける人に、眞季を悪く言われたくなかった。

「経験もないくせに知識だけは豊富なんだ?気持ち悪い…ていうか、眞季を取られたくないんでしょ?」

勢いに任せて言った。

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