《MUMEI》
不安
佐伯は私たちを馬鹿にすることを、止めなかった。

眞季へのいじめも、どんどんエスカレートしていった。

私は眞季を守りたくて、なるべく傍を離れないように心掛けた。
自分が傷つくのも眞季が傷つくのも、怖かった。










…──けど、


中学二年の冬、私の中の眞季が特別な存在ではなくなった。






あの日、私は兄と兄の友達の相手をしてから眞季に借りていた本を返しに、眞季の家に行った。


母の男の相手をしたり、兄たちの相手をした日は、自分が死ぬ程嫌になって、汚れた自分を殺してしまいたくなる。


その行為が激しい程に、私の衝動は強くなる。
そんな日に眞季といると、落ち着く。
本を返すなんて、ただの口実なのかも知れない。











ピンポーン──…










チャイムを鳴らしたのに、眞季は出て来なかった。


いつもだったら家にいる時間なのに…。

私は何度かチャイムを鳴らしてみたが、眞季は出て来なかった。
諦めて帰ろうと思ったけど、なんとなく胸騒ぎのようなものがして、私はドアノブに手を掛けた。

鍵が掛かっていなかった為、ドアは簡単に開いた。

「……眞季…?」

声を掛けてみたけど、返事はなかった。

「…いない…の…?」

不用心だな、と思いながら家を出ようとすると、二階から物音が聞こえた。

「…眞季?いるの?」

私は、恐る恐る階段を上がって行った。



いつもよく遊んでいる眞季の部屋の扉が、少し開いていた。
もう一度、声を掛けようとして私は止めた。


中から、兄や他の男たちみたいな、苦しそうな気味の悪い声が聞こえてくる。




眞季に何かあったんじゃないか…。





私は知っている。
眞季が陰で佐伯たちに、私がされてるようないじめを受けていることを…。


だからこの時も、佐伯たちだと思った。
私の知らないうちに、佐伯たちが眞季の家に、来たんだと思った。


不安になった私は、扉の隙間から中を覗いた。

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