《MUMEI》

佐伯たちの姿も見当たらず、部屋はいつも通りだった。
普段、私が遊びに来る眞季の部屋と何も変わらない。




眞季は…、ベッドに横たわっていた。

ベッドに横たわって、お腹を押さえているように見えた。




具合悪いの?





最初は、そう思った。
けど…何かが違う。
いつもの眞季じゃない感じがした。
私はなんだか眞季が怖くて、その場から動くことができなかった。



眞季は、お腹を押さえながらブツブツと何か言っている。
私は耳を澄ました。

「…ぁ、…ひ…陽…菜、陽菜…大好き…だよ」

苦しそうだけど、はっきり聞こえた眞季の言葉に驚いた。


そんなときになに言ってるの?


そう疑問に思いながら、なんとなく眞季の周りに視線を落とし、私の頭は更に混乱した。



眞季の周りに置いてある物に、 見覚えがあった。


上履きに体操服。
リコーダーに水着。


他の物も…。
眞季の周りにあるもの全てに、見覚えがあって、その全ては間違いなく、今まで失くなっていった私の持ち物だった。









なんで…?

なんで眞季が、私の物持ってるの?

眞季が探して見付けてくれたの?









小学校のときに失くした物を、 今更探すわけがない。
そんな筈ない、 そんなこと有り得ない、わかってたけど……私はそう思いたかった。
眞季が私を嫌ってした行動だとか、そんなことは考えたくなかった。





けど私の考えは… 今まで背中を向けていた眞季が、仰向けの体制になったことで変わった。



眞季は…





お腹を押さえているわけじゃなかった。

眞季の右手は、大きくなった眞季自身を握っていて、左手には…



あの日、失くなった筈の私の下着が、握り締められていた。

「陽菜…、陽菜のココ…いい匂いするよ…」

そう言いながら、私の下着の匂いを嗅いでいる。








…眞季は……





眞季は、兄たちと変わらない。
眞季も私を、兄たちみたいに玩具として見てた…?
親友だと思ってたのは、私だけだったんだ…。
眞季の隣が落ち着くなんて、私の勘違いだった。

嫌な顔ひとつしないで、私の傍にいてくれる代わりに、眞季は私の困る姿を見て笑ってたんだ。






脳裏に佐伯の言葉が過る。



“俺が猿なら眞季はなんだろな?変態?”

“へぇ…じゃあ眞季ちゃんは魅力あるんだ?変態なのに”



佐伯は……知ってた…?

二人で笑ってた…?




そう思ったら、涙が溢れてきた。












私は静かに眞季の家を出た。







眞季だけは裏切らないと思ってたのに…。

眞季はいつから私を、兄たちと同じ目で見てた?

いつから私を笑ってた…?

いつから私を嫌ってた?










信じてたのに…。



私の心は悲しみと絶望と、怒りでいっぱいになった。

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