《MUMEI》
勘違い
家に着くまでの間、いろんな感情が込み上げてきて、もう自分で何を考えているかさえ、わからなかった。

でも家に帰って兄を見た瞬間、私の頭は冷静になった。

「おかえり」

兄はそう言いながら、私の腕を掴んだ。

「ごめん、お兄ちゃん…あたし、 今日は遊べないの…すごく疲れたの」

私が兄の方は見ずにそう言うと、兄は私の腕を引いて、座らせた。
そして私の顔を見ると、笑った。

「なに?お前泣いてんの?お前みたいなガキがなに疲れることがあんだよ」

私は何も答えずに、視線を逸らした。

「おまえに拒否する権利あると思ってんの?」

抵抗しても無駄。逆らっても痛い思いするだけ。
そう思って私が首を横に振ると、兄は鼻で笑った。

「わかってんなら疲れたとか言ってんじゃねぇよ、いつも言ってんだろ?お前の泣いた顔がうけるって。最近、泣かせるのに苦労するからな、こんなタイミングでなにもしないわけにいかねぇわ」

そう言うと兄は、人形を扱うみたいにして私で遊んだ。


兄に何されたって、もう悲しくなんかない。
兄に遊ばれてる間は、まるで心が無くなったみたいに、何も感じないようになったから。


家族だなんて意識は、ずっと昔に捨てたから。






ただ、その日は… 眞季のことが頭から離れなくて、傷が大きすぎて涙が止まらなかった。









もう私を、理解してくれる人はいないんだ…。

私は独りなんだ、そう思った。



別に眞季は私のこと、理解したことなんてなかったのかも知れないけど…。


だって、理解するもなにも…自分のことなんて、あまり話さなかったし、普通を装ってた。


眞季はいつも私の後ろを、黙ってついて来てくれるから…いつも傍にいてくれたから…、勝手に好かれてるって勘違いしてただけ。


本当は…私が眞季に、くっついて歩いてただけだったんだ。
勝手に共感して、理解してくれてるんだなんて思い込んで……。







自惚れてたのは、佐伯じゃなくて…私だ…。

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