《MUMEI》
始まり
私には無理だった。



眞季を許すことなんてできなかった。
頭では許さなきゃ、と思うのに毎日感じる眞季の視線が怖くて、眞季を見ることすらできなくなっていた。


そして次第に私は、眞季を『気持ち悪い』と思うようになってしまった。


もう眞季の気持ちなんて、考える余裕はなくなっていた。
兄たちが私を見る目とは違うけど、どこか似ていて…。


上手く言えないけど、眞季が怖くて、気持ち悪くて、私は眞季が自分から離れてくれることばかり考えていた。


中学を、卒業するまでの我慢。
高校は、眞季の入れない場所にしよう。

私はそう決めて、必死に勉強をした。



母が連れてくる男たちにも、高校に入る為のお金をもらった。










けどその考えは、受験が終わって家に帰る途中で、打ち砕かれた。


テストには自信があった。
それだけ必死に、勉強したから。


これで全部終わる。
学校で眞季と顔を合わせることは、なくなる。辛かった勉強も全部終わる。
母が連れてくる男たちを、自分から誘う必要もなくなる。




電車を待つホームで、そう思いながら私は息を吐き、空を見上げた。


その瞬間、背中に嫌な視線を感じて振り返った私は、思わず小さな悲鳴をあげた。

「…なに…してるの?」



──私の後ろには、眞季がいた。



「陽菜の声、久し振りに聞いた」

私の質問には答えず、眞季は嬉しそうに言った。

「いつから…いた、の?」

普通に喋ったつもりだったけど、私の声は震えていた。

「ずっとだよ、僕も同じ高校受験したから」

眞季の言葉に、思わず笑ってしまった。





どうして私が行く高校を知ってるの?


どうして私は、眞季の存在に気付かなかった?


今まで頑張ってきたことは、全部無駄だったの?


私は眞季から離れられないの?




いくら考えても、答えは出なかった。








眞季から離れる方法が見つからないまま、合格の通知が来た。
そして眞季も、合格したことを知った。





入学の二週間前、私はまだ眞季のことで悩んでいた。
そんな時、私は兄の異変に気付いた。


今まで日課のように、私で遊んでいた兄が私で遊ばなくなった。
遊ばなくなった理由は『本気になれる彼女ができたから』だった。


お兄ちゃんの分が減っただけ、眞季のことは耐えられるかな…。


諦め半分で、そう思った時、私はハッとした。


私は兄との行為が、死ぬ程嫌だった。
たった一人の兄妹なのに、兄といる時間が苦痛としか感じられなくなっていた。


眞季にも、同じ気持ちを味わせればいい。
同じ気持ちを味わって、私を嫌えば自然に離れていく。














そう思ったのが、全ての始まりだった。

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