《MUMEI》
廃墟になったｱﾊﾟｰﾄ
「もう皆も気付いてるとは思うけど、今から行く所は例の廃墟ｱﾊﾟｰﾄなんだ。」


そう、洋平の言う通り皆は気付いていた。
この道、この辺りで肝試しを行うには、まずその廃墟ｱﾊﾟｰﾄしかないのだ。

それにこの町では結構有名な心霊ｽﾎﾟｯﾄである。


『髪の長い女の人がいた』とか、『泣き声が聞こえた』という噂がたつのは珍しくもない。


「なんだ、やっぱあそこなんだ。」


優香が残念とでも言いた気な表情で洋平を見る。

もっと別な所はないの？
などと言おうとしたのか、また口を開こうとしたら、洋平がそれを遮った。


「待て待て、面白いはここから。」


わざと声のﾄｰﾝを落とし、洋平は言った。


「あそこはな、ほんのちょっと前まで普通のｱﾊﾟｰﾄだったんだ。

色んな人が入れ変わりで住んでは、色んな思い出を作っていった。
大家自身もそのｱﾊﾟｰﾄに住んでいて、毎日住人との会話を楽しんでいたんだそうだ。


そんなある日、何やら訳ありの女性が入居したいと大家に言ってきた。

初めは大家も断ってたらしいんだけど、その女性はいつまで経っても退かなかったらしい。


根気負けした大家はついにその女性の入居を許可したらしいんだけど…」



「で？何だよ！？」


焦らしているつもりなのか、いきなり洋平が鞄の中を漁り始めたので、話が滞った。
いつの間にか聴き入っていた司は、早く話せとばかりにせがんだのだ。



「その女性は入居した三日後にな…」



探していたﾓﾉが見つかったのか、鞄を漁っていた洋平の腕がﾋﾟﾀﾘと止まった。



「ﾊﾞﾗﾊﾞﾗになって死んでたんだと！！」

「ぎゃーーー！！」

「きゃぁぁ！！」



洋平が取り出したのは懐中電灯。
下から照らされ、光と影のｺﾝﾄﾗｽﾄが恐怖心を駆り立てて、友の顔をｿﾞﾝﾋﾞの如く仕立て上げていた。

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