《MUMEI》
告白
学校帰り、私は眞季の家に寄った。

昨日のメールで眞季は、「話さなきゃいけないことがある」なんて言ってたのに、なかなか話し出さないで床に正座したまま、ベッドに座る私を見つめている。

つい最近、眞季は先輩といる私を見て、先輩が誰なのか問いただしてきた。


普段、大人しく私の言うことを聞いているのに、先輩のことを問いただす眞季は、いつもの眞季じゃなかった。

そんな眞季を見ていた私は、なにも話さない眞季にだんだん不安を感じてきた。

「話ってなに?話さないなら帰っていい?」

とにかくこの場から逃げ出したくなり、先輩の話は違う日にしようと思って聞いたけど、眞季は何も応えない。

黙ったままでいる眞季に、私の不安はどんどん大きくなる。

思い当たることは、全て聞いてみた。
なのに眞季は、その質問に答えるんじゃなく、黙ったまま私の足に手を伸ばしてきた。


眞季の手が足に触れた瞬間、あの日の光景が頭を過って、パニックになった私は足を避けた。
けど避けた足は、眞季の顔面に勢い良く当たった。

「いたッ!!」

手で顔を覆う眞季に、私はその勢いのまま、怒鳴った。

「なにしてんのよッ!!」

今まで眞季に感情的になることなんてなかったから、眞季は驚くと思ったのに、驚くどころか抱きついてきた。

「いやあぁぁぁああッッ!!!!」

あまりに急な出来事に驚いて、私は叫んで暴れた。

「大丈夫、大丈夫だよ、陽菜…恥ずかしがらないで」

眞季が言った。
私に抱きつく眞季の腕は、想像以上に力強くて、私はパニックになって叫んだ。

「ふざけないで!!なんでアンタみたいな変態相手に恥ずかしがんなきゃいけないのよ!放してよッ!!」

眞季の力が緩んだ隙に、眞季の腕から抜け出して、部屋の隅に逃げた。

「……どういうこと?」

眞季は驚いた顔をしている。

「そのまんまでしょ!?なんで恥ずかしがる必要があんのよ」

「だって、陽菜は僕のことが好きなんでしょ?」

意味がわからなかった。
あんなに嫌われるように接してきたのに、なんで…。
眞季の思考が理解できなくて、何故か笑えてきた。

「は…ははっ、よくそんな勘違いができるよね…そういうとこが嫌いなの!どこでそんな考え方ができたのよ!バカじゃないの!?」

「だって…いつも一緒にいたじゃないか!僕と陽菜は一心同体でしょ?どっちが欠けてもダメでしょ?」

今までしてきたこと、全部意味なかった…。


これじゃ、あの受験の日と全く同じ…。
全部…話さなきゃわからないんだ。
そう思って私は、今までのことを話す決意をした。

「仲良くしてたのは昔の話。幼なじみだし、くだらない理由でいじめなんてする子たちも気に入らなかったから庇ったりもした。でもアンタ…おかしいんだもん」

「……おかしいって?」

続きを話す勇気がなくて、私はひとつ大きく息を吐いてから、真っ直ぐ眞季を見た。

「ねぇ、あたしが何も知らないと思ってる?あたし、知ってんだよ?」

「……知ってるって…なにを?」

眞季はわかっていないみたいだった。

「……小学校んとき…なくなったでしょ?」

「なにが?」

ここまで言ってもわからない眞季に、苛立ちを感じた。


私はずっと、悩んできたのに…。

あんなに傷ついたのに…。

「あたしの物!あたしの物だけどんどんなくなってったでしょ!?覚えてないの!?……アンタが盗んだんでしょ?あたしの物」

眞季は動揺しているようだった。

「あたし…見たの……アンタが部屋で盗まれた筈のあたしの下着の匂い嗅ぎながらヘンなことしてるとこ…凄く気持ち悪かったし凄くショックだった。いちばん心配してくれてたと思ってた人が犯人で、あんなことに使ってたから…」

今まで黙っていたことを吐き出したら、涙が出そうだった。

「そんなことしてたのに、アンタは次の日も平気な顔であたしに近付いて来た」

わかって欲しかった。
少しでもいいから…。悪いことをした、そう思って欲しかった。





ううん…。


悪いことをしたなんて思わなくてもいい。
昔みたいに戻れないことだけでも、わかって欲しかった。

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