《MUMEI》
目撃者
小さい頃は、眞季と手を繋いだりしてたのに、あの日から私は眞季に触られることが、気持ち悪くなっていた。


兄たちに遊ばれてきた経験から、感情的になると悪い方向に行ってしまうのは、わかっていた筈なのに、眞季を“気持ち悪い”と思うようになってしまっていた私は、咄嗟に「触んないで」と、叫んでいた。


普段、眞季を弄んでいたからもっと、冷静に対処できると思っていたのに、叫んでしまった自分自身に驚く私とは対照的に、眞季は静かな声で落ち着いてと言った。
誤解とかなきゃ、と。
そして……

「それに陽菜の家は学校行くときに通るんだから、 うろつくななんて言ったって無理だよ」

と続け、私は眞季の白々しい言葉に怒りを覚え、また感情的になってしまった。

「とぼけないで!あたしん家の周りうろついてたの知ってんの!毎日毎日あたしの部屋、外から覗いたりしてたでしょ!?」

眞季にはわからない。
毎日誰かが、自分の部屋の様子を伺っている怖さなんて…。

「あれは見張ってたんだよ!陽菜がヘンな男に襲われないように!今だって真鍋に狙われてるでしょ?こないだだって…」

あの日…、先輩が家まで送ってくれた日…。
眞季は見てたんだ…。










──数日前、私は先輩と学校帰りにファストフード店に行った。

先輩といると時間の流れが早くて、気付くと空は薄暗くなっていた。
危ないから送ると、言ってくれた先輩は帰り道に、手を握ってきた。

大きくて骨ばった先輩の手は、冷たくて少し汗ばんでいて、緊張してるんだろうと思ったら、なんだか嬉しかった。



そして家に着くと、

「じゃあ、また明日学校で」

と先輩が言った。

「はい。わざわざありがとうございました、先輩も気を付けて帰ってください」

そう言うと、先輩は「おう」と微笑んだ。
そして、帰り道の方に体を向けたと思ったら、私の方に戻って来た。

「陽菜ちゃん、陽菜ちゃんは俺の…彼女…で、いいんだよ…ね?」

先輩が不安そうに、聞いてきた。

「え…?はい」

「じゃあさ、敬語やめない?なんか…壁あんじゃん?」

そう言って笑う先輩に、私は頷いた。

「じゃあ約束ね?陽菜ちゃん知らないと思うけどさ、陽菜ちゃんはモテんだよ、だから壁あると心配でさ…って俺ウザい?」

先輩の言葉は、なんだかくすぐったくて、私は笑いながら首を振った。
今まで誰かに心配だなんて、言われたことなかった…。


たぶん私の顔は、赤くなってたと思う。

「そっか…よかった、ありがとう、じゃあ明日」

「…明日」

そう返して、家に入ろうとした瞬間、腕を引かれ私の唇が先輩の唇に触れた。


一瞬、なにが起きたのかわからなかったけど、

「ごめん、嫌だった?」

と言った先輩の顔が、すごく近くにあって、キスしたんだと私は実感した。
けど同時に恥ずかしくなって、私は俯いて首を振った。



家に帰ってから、私は舞い上がっていた。
恋愛なんて一生しない、とか思ってたのに…。

恋できてる自分が、嬉しかった。
先輩の気持ちが、嬉しかった。


そして眞季に、先に帰ってと言っておいたことに、安心した。

こんな姿、見られたくない。
浮かれたり、恥ずかしがったりする自分を、眞季に見せたくない。


今頃眞季は、佐野さんといるんだろう…。








──そう思っていた。



なのに眞季は…、


どこまで知ってるの?

「見てたの?先に帰るように言ったのに…ていうか……なんで先輩の名前知ってんのよ」

「……調べたんだよ」

眞季が真剣な表情で言った。

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