《MUMEI》
暗い夜
 
 
あの日…

あの事件の翌日、佐伯が僕の家に来た。


「…ど、どうしたの?佐伯くん…こんな時間に」

「ちょっと暇だから遊びに来てやったんだよ」

時計はもう、19時を回っていた。

「これから塾なんだけどさ、ダルくて…おまえん家、母ちゃんいる?」

僕の家は父親は単身赴任で、母親もあまり帰って来なかったから、いつも一人だった。
佐伯はそれを知っているのに、わざとらしく聞いた。

「いないんなら上がっていい?」

「きょ…今日は…母さん、いるんだ」

佐伯と二人きりでいたら、なにされるかわからない。
だから僕は、嘘をついたのに佐伯は「あっそ」と言って、家に入ってきた。

「誰もいねぇじゃん、嘘つくなよ」

佐伯はそう言いながら、テーブルに置かれたコンビニ弁当を、僕に投げつけた。
そして、そのまま二階の僕の部屋に上がって行く。

「ジュ、ジュース…飲む?」

僕が言うと佐伯は「いらね」と言って、僕の部屋を見渡した。
それから僕の机の引き出しに、手を掛けた。

「ダメっ!!」

僕が大声を出すと、佐伯はニヤッと笑って引き出しを開けた。

「やっぱな、犯人は眞季か」

佐伯は笑いながら、引き出しの中の物を、次々と出していった。

「違う…僕…僕……」

僕は目から、涙が溢れた。
床に散らばった陽菜の盗まれた物、笑う佐伯…。
景色が歪んで見える。



僕は…どうしたらいいか、わからなかった。

「オマエこれ、なにに使ってんの?」

佐伯がニヤニヤしながら、聞いてきた。

「違うんだ…僕は…僕は……」

「今森に言っちゃお〜かなぁ〜」

「やめて…やめてよ、僕…」

「やだ!眞季くんキモい!大キライっ!」

佐伯が声色を変えて、言った。
陽菜に知られたら、絶対に嫌われる。
昨日あんなに泣いてたのに……。

「…僕…僕……ごめ…っ、ごめんなさい」

僕は声をあげて泣いた。
この状況を、どうしたらいいかわからなくて。
陽菜に嫌われるのが、怖くて…。

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