《MUMEI》 思い出「ほんとはこんなことしたくないんだけどね?…普通の恋人同士みたいに愛し合いたいんだけど……陽菜がいい子にしてないから…」 僕はどんな表情で、その言葉を口にしたんだろう……。 口元が緩んでいるのはわかるから、優しく微笑みながら言ってるとは思うけど…。 陽菜は僕が持ってるロープと、僕の顔に視線をやっていやいやをしながら座り込んだ。 まるで僕を怖がっているみたいに…。 「そんな顔しないで?僕はただ、 真鍋のときみたいに素直になって欲しいだけなんだよ?それなのに…そんな表情されたら… もっと泣かしたくなっちゃう」 「でき…ない……できない…」 陽菜は泣きながら、首を振った。 「できるよ……陽菜はいい子だもん」 「できな、い…ッ……できないぃ …」 陽菜は尚も首を激しく振り、子供のように泣きじゃくった。 「ねぇ、覚えてる?陽菜が初めて僕に涙を見せた日のこと…」 陽菜はヒックヒックと、泣き疲れた子供のようにしながら僕を見た。 「パンツが無くなった日のことだよ…陽菜が僕にだけ涙を見せてくれた日のことだよ……」 僕は思い出していた。 あの忘れられない日のことを…。 僕と陽菜の大切な思い出のひとつ…。 あの日から今まで、陽菜のあの表情を忘れられなかった…。 陽菜を想う度に、陽菜のあの表情が、僕の頭の中を支配していた。 陽菜は今まで泣いたことなんかなかった。 明るくて可愛くて、頭が良くて強くて、陽菜はクラスのアイドル的な存在だった…。 大人たちだって、みんな「可愛いお嬢さんね」なんて言っていた。 お人形さんみたいに可愛い陽菜には、僕みたいな男じゃなくて、 もっと男らしくて逞しい人が似合うと思ってた。 将来そんな人と、結婚すると思ってた。 けど、あの日…… 僕が陽菜の下着を盗んだあの日に、自分の考えが愚かだったことに気付いたんだ。 前へ |次へ |
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