《MUMEI》 忘れられない想い『内緒だけどね、あたしもしたことあるんだ』 僕が教室でオシッコを漏らしたあの日、陽菜が言った言葉は衝撃的だった。 みんなの人気者だった陽菜が、嫌われ者の僕のオシッコを片付けてくれただけじゃなく、僕に恥ずかしい秘密を明かしてくれた。 僕にとっての陽菜は、いつも一緒にいてくれるのに、とても遠い存在だった。 陽菜の普段の生活なんて、想像もできなかった。 なのに僕は、陽菜がオシッコをすることを知った。 それどころか、僕と同じようにオシッコを漏らしたことを、知った。 陽菜はどうやって、オシッコするんだろう…。 陽菜のオシッコは、どんな匂いがするんだろう…。 陽菜はいつ、どこで漏らしたんだろう…。 陽菜もお漏らしして、笑われた?泣いた? そんなことばかり考えていたら、僕の陽菜への気持ちは、どんどん歪んでいった。 陽菜の匂いを嗅ぎたい…。 陽菜が笑われてるところを、見てみたい。 いじめられてるところを、見てみたい。 泣いてるところを、見てみたい。 いじめられて、泣いてるところを見たい。 陽菜を感じられるものは、たくさん集めた。 陽菜を泣かせる方法を、たくさん調べた。 陽菜を泣かせる方法は、パソコンを使えば、簡単に見つかったし、手に入った。 僕は陽菜の笑顔が好きだった。 陽菜が笑ってくれると、佐伯たちのことも、家でひとりでいる寂しさも、忘れられた。 僕は陽菜のそんな表情が、大好きだった。 けど下着を盗まれたあの日… 僕の気持ちは、変わった。 泣いている陽菜を心配そうに取り囲む女子たちに、恐る恐る近付いてみると、僕に気付いた陽菜が、抱きついてきた。 あのときは、心臓が破裂しちゃうんじゃないかってくらいにドキドキした。 陽菜の泣き顔は、なんて綺麗なんだろう、と思った。 僕がパンツを盗んだことで、陽菜が泣いたことにも感動した。 僕が泣かした。 いつも泣かない強い陽菜を、僕が泣かした。 笑顔の陽菜は、みんなのモノだけど、泣いてる陽菜は僕だけのモノなんだ…! そう思った。 その日は、ただ「一緒に帰ろう」としか言えなくて… わざとらしく、草むらの中を捜しながら帰ったりするしかできなかったけど… 僕はあの日から、陽菜には僕がいないといけないんだと確信した。 逞しい男が必要なんじゃない、 僕が必要なんだ……と。 前へ |次へ |
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