《MUMEI》

「……始まったか」
何事かと回りを見回す羽野へ男の呟く声
B.Sの始まりを告げる、最初の断末魔
毎回の事ながら未だにこの瞬間は慣れる事が出来ずに居た
「そろそろ、此処もやばいな」
「?」
「行くぞ」
男の呟きに首を傾げれば有無を言わさず手首を掴まれ
何処かへと引き摺られてしまう
「何所に……っ!」
「こんな所で突っ立ってても仕方ねぇだろ」
取り敢えずは身を潜められる処へと向かったのは
今は使われていない廃ビル
今にも崩れそうな其処へ、男は躊躇することなく中へと入っていく
「……アンタ、なんで俺をこんな場所に連れてきた?」
「別に。唯、何となくだな」
「は?」
つい怪訝な顔をして向ければ
だが相手は口元に薄く笑みを浮かべて見せるばかりで
それ以上何を語る様子のない相手へ溜息だけを向ける
付き合ってなど居られない、と踵を返し外へと向かった
「ちょっ……。待てって!」
「何だよ?」
また引き寄せられ、一応首だけをまた振り向かせれば
取られた腕を引かれ、そのま抱きすくめられてしまう
「!?」
突然の拘束に驚き、何とか逃れようともがくが
相手の力が思いの他強く、振り払う事が出来ない
「は、なせ……!」
「離せば、逃げるだろ。お前」
「当然、だろ!大体アンタ、一体何が目的だ!?」
漸く腕を振りほどいてやり、相手を睨みつけてやった
次の瞬間
また何処からか悲鳴の様な声が聞こえて来る
「……いつ聞いても気持ちのいいもんじゃねぇな」
その意見については羽野も同感だった
B.Sが始まる度、町のあちらこちらで聞こえてくる断末魔の様な声
命を無駄に掛けられる程、何がヒトをこのゲームへと掻き立てるのか
羽野には、未だ理解など出来ない
「こんなのに没頭するなんてのは馬鹿けてるって、周りを笑うか?」
「……興味がない」
他人が何をしようと、その結果どうなろうとそれこそ興味など無かった
ゲームが始まる度、ヒトは皆この街の何所かにあるたったひとつのB.Sを探し出し
そして奪い合う
ヒトを謀り、裏切り、挙句には殺す
そんな無益な道楽に、どうして身を投じることなど出来るのだろうか、と
羽野は無意識に眉間に皺を寄せた
「……解らねぇって面してんな」
「は?」
「解んねぇならお前、、暫く俺と一緒にいろ。そしたら少しは解るかもだぞ」
B.Sの本質が、と続ける相手
その意図が全く解らない
問い質してやろうと口を開き掛ければ相手と視線が重なる
見えたその眼に、一瞬哀の色が見えたような気がして
羽野はつい口を噤んでしまった
「よーし。いい子だ」
無言でいる事を諾と取ったのか、相手の手が頭を乱暴に撫でてくる
暖かな手の温もり他人のソレなど今の今まで意識した事など無かったが、ひどく心地良かった
その温もりに無意識に安堵し肩を撫で下ろした、その直後
誰も居ない筈の廃ビル、その中を走る足音が耳障りに響いてくる
誰かが、来た
反射的に振り返ってしまえば、発砲音が同時に響き
顔の間横を銃弾が掠め、羽野の背後にある壁を砕いていた
「……見ィつけた。可愛い子ちゃん」
やはり耳障りな声が聞こえてき、嫌な顔をあからさまに向いて直って見れば
先刻、羽野に絡んできた男が其処に立って居て
厭らしい笑みをその口元に浮かべている
「……さっそくで悪いけど、死んでくんねぇかな」
いお割と同時に胸元に突き付けられる銃口
発砲したばかりのソレは未だ熱を帯びていて
衣服の上からじわり皮膚を焼いた
相変わらず、不可解なゲーム
だが自身がこれ程まで執拗に追われるその理由が分からず
全く、思い当たる節などなかった
「……早く、しねぇと、俺消えるかもしれねぇんだって。BSさえもっていけば、俺、助かるって……」
段々と言葉が覚束なくなり、相手の手が何かを捜す様に羽野の身体を這う
不快なソレに、そして明らかに異常にしか見えない相手の様に怪訝な顔を浮かべてしまえば
相手の指先が唐突に白く変色し、そこから全身が脆く崩れ始めていた
「寄、越せよ。お前の、B.S――」
言い終わると同時にその全てが白く散っていく
一体何が起こったのか
解る筈もなく、羽野はそのまま立ち尽くすしか出来ない
「……アンタ、何か知ってんだろ」
「は?俺がか?」

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