《MUMEI》
初めてのキス
「あの日、僕は陽菜の特別なんだってわかった…」

陽菜は眉間に皺を寄せて、困惑した表情を浮かべている。

「僕は陽菜の泣いてる顔がいちばん好きなんだよ…泣いてるときの陽菜がいちばん綺麗な顔してる……僕を興奮させてくれる…」

僕は震える陽菜を、そっと抱き締めた。

「僕を避け出したときも、どうやって泣かせるか考えてた…今だって…だから…ね?…いっぱい泣いてね」

そして抵抗する陽菜の体を、ロープで縛っていった。
あのDVDで女の人が縛られてたみたいに…。
陽菜も、あの女の人みたいに手は後ろで縛られて、綺麗な胸はロープで絞り出されて、足を大きく開いた格好になった。

「これでもう、逃げられないね?」

僕が微笑むと、陽菜は涙を溜めた目で懇願してきた。

「お願い、お願いだから……許して」

「じゃあ、真鍋にしてたみたいにキスしてよ」

「だって、あれは違う」

「なにが違うの?」

「あたしからしたんじゃ…ないもん……」

「一緒だよ?陽菜からしててもしてなくても…僕以外の男に気を許したのは一緒なんだよ?… 許して欲しいんでしょ?」

陽菜は迷った様子で、ゆっくり頷いた。

「じゃあ、してよ」

そう言って陽菜を抱き寄せると、陽菜は深呼吸をしてから目をギュッと瞑って、僕の唇に軽く触れた。

「そんなんじゃ僕は満足できないよ?…わかってるでしょ?」

陽菜は困ったように、僕から目を逸らした。
だから僕は陽菜の顔を両手で抑えて、僕から逃げられないようにした。

「子供じゃないんだからさ…もう僕たちは昔と違うんだよ? 陽菜が言った言葉だよね?僕は陽菜の傍にいるだけで…ちょっと触ってもらうだけで満足できな くなった…陽菜だってそうでしょ?本当は僕に触れて欲しいんでしょ?」

「違っ……」

「じゃなかったらあんなに濡れないよ…陽菜の中には、まだ理性が残ってるんだよ…」

「理性とかじゃな……」

「そんなの捨てちゃいなよ…僕には陽菜が、陽菜には僕がいる…それだけは昔から変わらないんだから…それだけで充分なんだから」

「そんなわけっ……」

「早く…ちゃんとキスして?僕が満足できるように…許して欲しいならさ」

そう言って髪を撫でると陽菜は、観念したように目を伏せた。

「ちゃんと舌出して、僕の唇舐めて?」

陽菜は一瞬、僕を睨んでから小さな舌で、僕の唇にそっと触れた。
陽菜の舌先は緊張からか、少し堅くて震えていた。
僕はそんな陽菜が、可愛くて抱きしめたくなったけど、その気持ちを抑えた。









まだ、そこまでしちゃいけない……。


陽菜が自分から、僕を欲しがるようになるまでは…。
今までの僕みたいになるまでは、僕も我慢しなきゃいけない…。

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