貴方の中の小悪魔
を知る神秘の占い

《MUMEI》
暗雲。
「…ま、当たり前だけど、その人は簡単にはなびかなかった。『冗談はよしなさい』って、軽くあしらわれてさ」

そうだよね、って云いかけて、わたしは自分の経験の乏しさをふと思い出し、その言葉を飲み込んだ。


「あたしが仕事に慣れて来た頃、その人が別の地区に異動になるらしいって噂が流れて、焦ったあたしは、ある夜その人に詰め寄ったんだ。『もう会えないんですか!?なんであたしの気持ちに本気で応えてくれないんですか?』って」


わたしはまっすぐアキを見つめることしか出来ないで居る。
今、余計な口を挟んだら、アキの想いを冒涜しているみたいな、そんな失礼な行為になるんじゃないかって思ったから。



「返って来た答えは『もちろん百瀬さんの気持ちは嬉しいよ。けど私には家庭があり、守るべき家族が居る。大事な人達を、裏切ることは出来ない』。…ここまで完璧に断られたら、もう何も云えなかった」



短い溜め息が、聞こえた。

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