《MUMEI》
雲に隠された幸せ
「遅くなっちゃた!!」


暗闇の中、その小さな体に見合わない大きなバッグとランドセルを背負った少女、森島咲は暗い一本道を走っていた。


小学六年生である彼女は、バスケットボールチームに所属しており、今日はその練習がいつもより長引いてしまったのだ。


「お父さん、もう帰ってきてるかな?」


今日は父親の誕生日。


母と兄は既に帰宅し、準備をしていると連絡が入っていた。


「お父さん、喜んでくれるかなぁ?」


咲の家では毎年、家族の誕生日にはパーティーをすることにしている。


今年は一味違ったものにしようと計画していた。


それを計画したのは母だった。咲はその計画を聞いたとき、ワクワクした。


そんなことを考えながら走っていると、いつの間にか家の近くに来ていた。


そこに来て初めて、ここら一帯が異様な空気に包まれていることに気がつき、足を止めた。


家の方向から、人々のざわめき声が絶えず聞こえてくる。


咲は、嫌な予感がして、脇目も振らずに再び走り出した。


ざわめきに導かれるように走っていると、そこはやはり自宅だった。


視界の端にパトカーが止まっているのを認め、咲の心は恐怖と不安で埋め尽くされていった。


首筋に冷たさを感じながら、咲は人の渦の中に入っていった。


小さな体を活かして、人の渦を進み、最前列に出ることができた。


すると、目の前に鮮やかな青が広がった。道路一面にブルーシートがかけてあったのだ。


「危ないから下がって!」


大人達の制止も聞かず、咲はふらふらと歩き出した。

すると、咲の足に何かが当たる感触がした。


ゆっくり視線を下に持っていくと、それは人の手首だった。


そしてその手首には、見覚えのあるブレスレットが着けてあった。


「お兄ちゃん……!?」


そのブレスレットは、昨年の兄の誕生日にプレゼントしたものだった。


ふと、ブルーシートに目をやると隠しきれなかった血が顔を出していた。


その光景に身体中の力が抜け、咲はその場に崩れ落ちて、声をあげて泣いた。

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