《MUMEI》
理解出来ない
東京に出て来たのはかれこれ十年以上前の事。
父ちゃんと母ちゃんが離婚して、妹は母ちゃんの所。俺は父ちゃんの所。
離婚の時はお決まりの“どっちがどっちに着いてくか”子供に理解出来る訳もなく、結局は親の都合で決められる。
母ちゃんと妹と別れてしばらく経って俺は父ちゃんと一緒に仕事をするようになった。漁師。なりたかった訳でも、無理強いされた訳でもなく、ある夢をあきらめたふりをして流されて漁師になった。
『海人』今じゃけっこうな人が“うみんちゅ”が漁師って知ってる。海人の仕事は大変って訳でもなかった。父ちゃんと気楽に喧嘩しながら、台風の時には漁に出れず、貧乏した事もあった。それでも楽しかった。今思えば。
母ちゃんと妹が東京に出て行ったと同時に俺は一人暮らし。父ちゃんは当時は『一人で暮らしてる』って言ってたけど、あとになって“ある女”と暮らしてたってわかった。
ある日、その“ある女”が港に来た。父ちゃんは気まずそうに俺に紹介した。『幼なじみ』最初に聞いた紹介はそう聞いたけど、俺と父ちゃんが別れる事になって母ちゃんの所に行ったあと、人生で初めてのショックを受ける事件の時に“ある女”の正体がわかる事になる。
“幼なじみ”がちょくちょく港に来るようになった頃、母ちゃんから『妹が荒れてる』『学校にも行ってない』『家に帰って来ない』泣きながら電話が来るようになった。
父ちゃんと話しして、結果俺は母ちゃんの所に行く事になった。父ちゃんとも最後は喧嘩別れの状態で、俺は父ちゃんにひどい言葉を吐き捨てた。
父ちゃんの事はどうでもよく、母ちゃんと妹の事しか考えないで俺は東京に行った。
東京で就職して、会社の人達の顔と名前が一致し始めて、『東京の人もいい人居るじゃん』と思い始めた頃。妹も俺が来て喧嘩したり、話しあったり、遊びに行ったりして少し落ち着く気配を見せてた頃。
電話が鳴った。
『あんたの父ちゃん行方不明って!早く帰って来て!!』婆ちゃんからだった。
理解出来なかった。
本当に真っ白になった。
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