《MUMEI》
手紙
僕は愚かにも25秒という間、貴方のキスに気付かなかったのです。僕はそのことをとても悔しく思いました。同時に自分の愚直さを思い知ることに成りました。ここでせめてもの救いに、あのとき自分が何を思っていたのかを言えたのなら良かったのでしょうけど、それも思い出すことが出来ません。我ながら考えることですが、貴方だって悔しかった筈です。僕はきっとあまりに反応を示さなかったのですから……。

ただ、これだけは聞いて下さい。僕はあの日、何か幸せだったことに気付いているのです。何と云いましょうか、貴方と過ごしたことは覚えてなくとも、誰かのそばに居て、あるいは誰かが僕のそばに居て、安心感やぬくぬくとした――春の野原で温かい日差しを受けているような――気持ちで居たのは間違いありません。



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